2018.09.24 03:36パリ組曲㉔ 「今夜も抱きしめて寝てくれますか?」パリまで約3時間半。到着予定時刻は23時。時間はたっぷりある。 「では、みなさま、到着までしばらくお休みください。また、サービスエリアが近くなりましたらアナウンスにてお知らせいたします。」 添乗員さんの案内があった。 電気を消されたバス車内では、ところどころで客たちの話し声が聞こえはしたが静かなものだった。モン・サン・ミッシェルを離れると夜景というようなものは何もみえない。農村地帯の家の明かりが時折目に入る程度だった。フランスには、パリと田舎がある、と言われる意味が分かった。 ミヒャンは暗い車内で、今日ケータイで撮った写真を一枚一枚丁寧に眺めていた。 「タニガワさんを撮りました。」 見ると、彼が気づかぬうちに撮ったのだろう、...
2018.09.22 02:43パリ組曲㉓ モン・サン・ミッシェル観光モン・サン・ミッシェルを望む橋の階段に腰を掛けて、村のパン屋で買ってきたパンを頬張る。 大きなフランスパンに、ハムとレタス、それにマスタードが挟まれている。 おそらく本来は食べやすい大きさに包丁で切って食べるのだろう。一口かぶりつくだけでも大きな口を開けてパンを突っ込まなければならないほど。 「谷川さん、そのパン、すごいですネ。」 谷川が手に持っているそのパンに、ミヒャンが突然かじりつく。ところがフランスパンが固くて噛み切れず、犯人を捕まえた警察犬のように離さない。谷川も面白がって、フランスパンを右に左に引っ張るとようやくミヒャンが噛み切ることができた。フランスパンには、しっかりと歯型状に跡が残っている。 「わー、とてもおいしいです...
2018.09.10 13:12パリ組曲㉑ モン・サン・ミッシェルへ。「今日は、モン・サン・ミッシェルへ行きます。」早朝6時前、ミヒャンの独り言で彼は目を開けた。 朝の9時頃になってようやく明るくなるこの時期のパリではこの時間ではまだまだ深夜のように暗く、静けさに包まれている。起き上がるのがつらいほどの眠さだったが、7時10分出発のツアーに遅れるわけにもいかない。 「起きましたか?」 ミヒャンがTシャツスウェット姿でベッドの上の谷川に微笑みを送った。 独り言だと思ったミヒャンの言葉は、自分に向けられていたのだと彼は薄目を開けて気づく。 「君はもう起きてたんだね。」 「遅れてはダメだ、日本人は10分前には必ず集まるのが文化だ、と谷川さんが言いました。」 そういえ...