パリ組曲㉑ モン・サン・ミッシェルへ。
「起きましたか?」
ミヒャンがTシャツスウェット姿でベッドの上の谷川に微笑みを送った。
日本語の敬語とは、なんて心地よい響きなのだろう。起きて、とか、起きろ、なんて不躾な言い方には決して持ち合わせていない響き。そして日本人ではないミヒャンが言うからこそ何かその異国のイントネーションに美しさを感じるのだ。優しさそのもののようなそれに、まるで幼き頃に母親に促されているような童心になり、彼はミヒャンに怒られてはいけまいとベッドから出てようやく支度を始めた。
「ボンジュール。グッモーニン」
わざわざフランス語と英語で言ってくれたのはサービスを受けているという嬉しさがあった。
まだ深夜思わせるほど暗いパリの街へ踏み入れる。
開け放たれた地下鉄サンラザール駅の入り口を降りていく。日本とは違う、何の表示も液晶もない無機質な改札に切符を通し、回転棒を回して入った。
すぐにやって来た路線3に乗り込み、まずは隣りのオペラ駅まで行き、路線7に乗り換える。相変わらず几帳面な谷川は、迷わないように地下鉄の乗り方、方面、乗り換え駅、駅の読み方などをチェックしてきたため、二人は初めて来たとは思えないほどスムーズに歩く。
通路を歩いていると、
まだ早朝の広い駅構内には数人が歩いているのみで、アジア人がオロオロしている様は目立つ。
「アノ、日本の方デスカ? ドウシマシタカ?」
どうしてミヒャンは話したがるのだろう。
なので彼はミヒャンの背後に隠れるようにして、ただ黙っていようと思った。
「ツアー会社に行きたいんですけど、電車が分からなくなって。急がなきゃいけないんです。」
「タニガワさん、ここ、わかりますか?」
「そうなんですか。では、一緒に行きましょう。」
まさにそういうテンションが好きじゃないのだと、谷川は全く別のとことへ視線を放おってぼんやりと思った。
女性二人を背後に引き連れ、路線7に乗り換える。
パリでの日本人専門ツアー会社ということで、規模は大きいようだった。それだけパリを訪れる日本人が多いということだろう。
「おはようございます。ご予約のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
オフィス内に貼ってある各ツアーの案内や表示が全て日本語であり、そういった日本的雰囲気も手助けしたのかもしれない。
耳に入る言語が全て日本語という状況は異国の地ではなんとも奇妙でもある。
「ヴェルサイユ宮殿ツアーのお客様は、まだ・・・、だいぶ時間がありますが、お待ちいただけますか。」
受付の女性が、年配の客に告げる声が耳に入った。どうやらそっちのツアーの集合時間はまだ40分くらい先であるようだった。ツアー会社までちゃんと来れるかどうか不安で、結果的にそんなに早く来てしまったのだろう。日本人の時間に対するマナーには異国へ来ると微笑ましくも感じてしまう。
「これ、すごく高いよ、このランチ。ただのオムレツなのに。そんなにおいしいのかな。」
「いいえ、高いです。20ユーロです。2600円くらいですよ、オムレツで」
大型バスが大通りに付けてあるとのことで、ツアー参加者はオフィスより1分ほどぞろぞろ歩く。座席は自由席だというので車内の中程の席、谷川は窓側、ミヒャンが通路側に落ち着いた。
どうやら受付にいた女性が添乗員らしく、ツアー客が全員バスに乗ったのを確認して出発、ツアーの案内を始めた。
「みなさま、何か御用の時はぜひ、ヒロ、と呼んでください。」
滞在時間は40分くらいらしいが郊外の村を見れるのは興味深い。
青空をバックに修道院を写真に撮りたいとは思っていたが仕方ない。
おかやんの「とりあえず何でもひとりでやってみる」ブログ。
やりたい事は悩みながらなんでもやってみる。結果的に楽しんでる!また、何かに特化して書いているわけではありません。 書きたいことをごった混ぜにしてネタをブチ混んで書いていますhttps://www.instagram.com/the_unending_world/?hl=ja
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