マンガドゥア行きのバスが、夜のジャカルタの、決して良好とは言えない道路を飛ばして走る。シートベルトなどもちろんない。走り始めて10分ほどすると、係の男が料金を回収しにきた。
確か日本円で200円くらいだった気がする。
支払いをすると、チケットをくれた。
ついでに「コタ(駅)」と伝えた。
海外でのバス移動はとにかく運転手に降りる場所を伝えておく。そうすればそこに着いた時に教えてくれる可能性が高い。
渋滞がひどいと聞いてはいたが順調に進んでいるようだ。
降りる場所を伝えはしたが、本当にコタ駅方面へ進んでいるのか心配になる。
現地SIMカードを入れたばかりのiphoneでグーグルマップを起動させてみる。
大丈夫だ。方面は合っている。
暗くてよく見えはしないが、やはり東南アジア独特の、粗末なコンクリートで雑に作られた家々が見える。
首都ではあるが、日本のようにLED灯はまだ普及していないのかオレンジ電球が目立ち、それが、怪しげな雰囲気を匂わせる。
旅が始まった高揚感と冷静に向き合いつつ、バスに揺られた。
約50分後、コタ駅が近づいてきた。
駅前の通りの、オレンジ灯の光で照らされた歩道を多くの人々が行き交っているのが車窓越しに見える。
歩道にはゴミやらホコリやら欠けた歩道のブロックの破片やらが散乱し、そのほんの僅かな隙間を埋めるように無数のバイクタクシーが客待ちをしていた。
それらがオレンジの色の光で深い陰影を伴って浮かび上がり、あたかも別の惑星にでもきてしまったような気さえする。一瞬ひるみ、バスを降りるのをためらうような場所だ。
その時、
「コタ!」
と係の男の叫びがバス内に響き、すぐに停車した。躊躇している場合ではない。降りなければ。
バックパックを背負い、まるで戦場の第一線にでも放り出される心持ちでオレはバスの外へ出た。
まずはまっすぐ歩く。キョロキョロしてはいけない。オレが外国人というのは明らかではあるが、不慣れな旅行者、という振る舞いをしていればスリや詐欺の格好の的になってしまう。迷っているふりなど見せずとにかく足を動かす。
このあたりの地図は頭に入れてきた。まずは「トランスジャカルタ」という路線バスに乗るために停留所へ向かう。
このトランスジャカルタは専用道路が作られ、渋滞に囚われることなく進むことができ、市民の足となっているそうだ。ホームもあり、言うなれば路面電車。
「ハロー。タクシー?! タクシー?!」
というオレへの掛け声を何度となく片手を上げて柔らかく断りながら、歩道を歩く。
鉄道のコタ駅のすぐ目の前だと頭に入れてきて、大通りの中央分離帯に見つけられたが、乗り場へどうやって行くのか分からない。
見えているそれの周りをぐるぐる歩いて入り口を探す。どうやら一度、地下道へ入ってそこから中央分離帯へ行くようだ。
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