クソ野郎のジャワ島横断記② 哲学的になる時。

 

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通りすがりのタクシードライバーの言った通路を歩いていくと、送迎車の空港ロータリーへ出た。  


ちょうどSIMカードの路面店があったので先に購入してしまおうと考えた。バスに乗れば市街地へは渋滞で一時間はかかるかもしれない。まずはネットの接続を確保したほうがいい。  


2つのケータイ会社が店を出していたので、両方のぞいて金額やプランを確認する。 LINEやGoogleマップ、サイト閲覧くらいしか使わないので1ヶ月間2ギガのSIMカードを購入することにした。  


店員に声をかけ、購入。約400円。安い。  


さっそくケータイに入れてみたが、ブロックされてしまう。   

焦った。  シムロックは解除してきた。なぜだ?  

ちょうどおそらく同じ便でやってきたであろう日本人の男性が、同じくSIMを購入していた。


大きなバックパックを背負っていて、同じくバックパッカーであろうと考えた。 


「あの、すみません。」  

オレは迷わず助けを求めた。 


その方も特に詳しい訳ではなかったが、自分のケータイとその方のケータイの設定で何が違うか見比べさせもらった。  


あ、「モバイルデータ通信」が「オフ」になっている。勝手に現地通信会社とつながって高額料金にならないようオフにしてあったのだ。

良かった。  


その男性は渡辺さんといった。  

同じく一人でやってきたバックパッカーであったが、3泊4日の弾丸旅らしく、ジャカルタには滞在せず、このあと国内線ですぐ古都ジョグジャカルタへ飛ぶという。


そして明朝、世界遺産ボルブドゥール遺跡の朝焼けツアーに参加するとのこと。その後また国内線でバリ島へ行くらしい。まさに弾丸。    


渡辺さんは空港からバスに乗って市街へ出ようとしているオレに、 

「すごいですね。普通ホテルまでタクシーですよ。」  と驚きの声をあげてくれた。  

根本的にオレは冒険がしたいのであって、最もローカルな移動手段好きなのだ。そもそも一時間近くもタクシーの運転手と二人で狭い車内で過ごしたくはない。  


渡辺さんはジョグジャカルタへ飛ぶ国内線の時間まで3時間ほどあるらしく、オレがバスに乗るまで付き合ってくれるという。  



二人してバス乗り場へ行くと、まるで日本の宝くじ売り場かのような小屋の中にイスラムの被り物をした係の女性が座っていて、行き先と金額が書かれたボードがその背後に見えた。  


聞けば、バス料金はバス内で支払うとのこと。次に、自分が乗るバス「マンガドゥア行き」がいつ来るのか確認に行く。


目の前のターミナルには次から次へとバスが入ってきては市街各方面へと出発していく。その無数のバスを待つ客たちを係のおじさんがひとりでさばいている。おそらく行き先名であろう、何かを大声で連呼し、客たちに知らせていた。  



おじさんに聞くと、「まだだ、待ってろ」というようなことをたぶん言った。  それを信じて、しばらく渡辺さんと話し込む。 すると、なぜだか同じくバスを待っているおばちゃんに話しかけられる。しかも英語だ。


 「日本人かい? どこへ行くんだい?」 


「あ、えっと、コタ駅まで。なのでマンガドゥア行きのバスに乗りたいんですが。」


 「そうなの。もう少し待てば来るよ。」  


そんな会話の延長で話し込むと、おばさんは以前アメリカに住んでいたことがあるとのことだった。アメリカではなんやかんやと話を聞いているうちにそのおばさんが乗るバスがやってきたようで、笑顔を残して去っていった。 


そうしてまた渡辺さんと話し込んでいると、今度は日本語で話しかけられた。 

 「日本の方ですか?」  


20代半ばくらいの女性だった。完璧なほどの日本語のイントネーション、さらには日本的な顔立ち、肌色に一瞬、日本人に見間違えてしまいそうになる。 

「そうです。」 とオレが返すと彼女は、 「やっぱり!」  と口にして喜んだ。  


どうやら遠くからオレと渡辺さんを見て、日本人だと分かり、話しかけてきてくれたとのこと。


以前、宮城県の気仙沼の魚加工会社で働いていたことがあるという。  


もしかしたら外国人技能実習生ってやつかもしれない、とオレは思った。テレビで見たことがある。日本で、給料は安いが実習という形で働く外国人のことだ。 


「日本語が話したかったんだよね。懐かしい。」  


日本語学習者特有のタメ口が海外では実に親密な雰囲気に感じられて心地いい。  

オレがマンガドゥア行きのバスを、かれこれ30分も待っていると伝えると、さきほどの係のおじさんに尋ねてくれた。

 「ここで待っていれば来るみたい。インドネシアは時間はテキトーだから。日本みたいに時間にぴったりじゃないからね。」 


彼女もここでバスを待っているのかと思いきや、家族で飛行機に乗るところであり、たまたま見かけたため話しかけにきてくれたという。


 「お姉さんがあっちにいるよ。」  見ると、女性と小さな子どもがいる。 「お姉さんの子供」  と彼女は言った。  


オレが飛行機でどこに行くのか聞くと、自分の町まで帰るとのこと。その町の名前に聞き覚えがあった。  


バンドン。 

「そこ、オレが明日、鉄道で行く町だよ。友達が住んでて、会う予定なんだ。」  


オレは以前、日本で知り合ったインドネシア人のローニーと会う約束をしていた。彼が住んでいる街がそのバンドンなのだ。  


それは、この旅が動き始めた瞬間でもあった。インドネシアに着いて早々に、まさに右も左も分からないような状況で「偶然」を引きつけた。体の中心が熱くなるような高揚感を感じずにはいられなかった。  


きっと彼女とは明日も会うことになるだろう。旅が物語になる瞬間だった。  すると彼女のお姉さんと子供が呼びにきた。 


「もう行かないといけないので、ラインを交換しましょう。」 と彼女が言った。 

「ライン、あるの?」 


「日本に住んでいましたから。日本の友達はラインで連絡します。」  


ラインの「友達」を見させてもらうとそこには日本の名前が並んでいた。 

「コレ、ワタシの日本のお母さんです。」  

そう言って彼はトーク内容まで見せてくれた。

そこには、その「日本のお母さん」がインドネシアに帰った彼女を気遣っている言葉がならんでいた。  


彼女らを見送った数分後、今度は自分の番となった。  


バスの係のおじさんが慌てた様子でオレを手招きした。



 「マンガドゥア! マンガドゥア!」



 ようやく待っていたバスが来たらしい。  

渡辺さんともラインの交換をし、お互いの旅の無事を伝え合ってお別れした。どうか安全な旅を。  




オレは小走りでおじさんに駆け寄る。  終始険しい表情だったおじさんも外国人のオレの要望に答えた満足感なのか、満面の笑みにて案内してくれた。


 「トゥリマカシ!」  


インドネシア語で、ありがとう、と伝える。最初にその言葉を使ったのはこのバスのおじさんになった。 


 ずっと待っている間、客を乗せては出発していくバスはどれも大型で見た目も新しいので、ボロいバスを想像していたオレは拍子抜けして安心しきっていたのに、結局マンガドゥア行きのバスだけは何故か期待を裏切らないボロボロの小型バスであった。  

バスにはきちんと「マンガドゥア行き」との紙が貼ってあった。  


20人乗りほどのその車内はすでに別ターミナルで乗車した客が席を埋めていて、オレはバスの一番前、入り口付近の席に腰を下ろした。ここなら景色がよく見えるし、現在地を確認しやすい。何より、着いたばかりでまずは都市の様子を特等席でみておきたい。  


いざ発車しようとする時、突然、慌てた様子で30代くらいの男性がバスに駆け込んできた。かと思えば、なんと日本人で、 「ガンビル?! ガンビル?!」 と運転手に幾分大きな声でたずねた。  


ガンビルとはジャカルタ中心部の「ガンビル駅」のことで、このバスはそっち方面へは行かない。ガンビル駅行きはこのバスの15分前に出てしまったのをオレは確認している。


 「ノー! ガンビル! ノー!」  

運転手は当然、その日本人男性にそう告げたが彼は慌てている様子ですぐにそれを理解できない。  


オレは彼に情報を伝えるべきという使命感が急に働き、 「あの、これはガンビル行きではありません。ガンビルは15分前に出てしまいました」 と早口で告げると、彼は運転手とオレの言葉の意味が合致し理解したようで、無言でバスを降りていった。  


彼の荷物は小型リュックだけだった。在住者だろうか。初めて来たオレでも係の人に聞いて間違わずに乗っているのに、彼は一体どうしたのだろう。旅をしているようなバックパッカーには見えなかった。 そしてバスが出発。 ジャカルタの街へと走り出した。  


何回経験しても、旅の初日、現地空港から街へと出る時はアドレナリンが最高潮に達している。これで大丈夫か、無事に宿へたどり着けるのか、その不安さえも高揚する胸の高鳴りの一部へと吸収されていく。  


これからどんな人と出会っていくのだろう。  海外での一人旅はいつもオレを哲学的にさせてくれた


おかやんの「とりあえず何でもひとりでやってみる」ブログ。

やりたい事は悩みながらなんでもやってみる。結果的に楽しんでる!また、何かに特化して書いているわけではありません。 書きたいことをごった混ぜにしてネタをブチ混んで書いていますhttps://www.instagram.com/the_unending_world/?hl=ja

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