新世界紀行 エジプトの旅⑨ コシャリを食う。

ツタンカーメンの財宝を見終え、ふと時計の針がもうすぐ午後四時を指そうとしていることに気がついた。

思いのほか早く午後の予定を片付けてしまったぼくは、これからの行動をどうしようか考えた。


カイロ博物館の広大なセンターホール、巨石の如きファラオ像の足元にある階段に腰を下ろし、「地球の歩き方」を手に取る。ページを繰り、明日の行程を考えるも、成田からの長いフライト、寝不足、そして今後続く旅路が頭をかすめる。


今日はこれ以上無理をせず、宿に戻り、ひとまず身体を休めることにしよう。




一日中歩き回って冒険したかったが、初日から疲れ果てることはない。
ただ、またタクシーを呼んでピラミッド方面へ帰るのではおもしろくない。バックパッカーたるもの、地元の人々に混じって地域の安価の移動手段を使わねば。
よって地下鉄やミニバスを乗り継いでピラミッドのあるギザ駅へ戻ろうと考えた。


博物館のすぐ近くに地下鉄の駅があり、行ってみる。




チケットは窓口で人から買う。駅名を伝えて料金を払うと、窓口のおばさんが青いチケットを出してくれた。約25円。



日本と似た改札にそれを入れ、構内へ。


方面を間違えないよう、確認してホームへ。


やってきた電車。日本のように女性専用車両があったことに驚く。
いくつかの駅を過ぎ、予定のギザ駅へ到着。


観光客などいない。地元の人ばかり。


欧米人もいない。駅前は、日本の駅前通り商店街かのように様々な店が、といってもリヤカーに服や野菜や果物、魚を乗っけただけの即席露店が並び、賑わっていた。


駅前に立って気づく。


ミニバス乗り場がない。


Googleで現在地を見てみる。


なんと、降りる駅を一つ間違えている。


もう一つ先の駅だった。


1駅くらい歩いて行けるだろうと地図を見てみるが、時間もかかるし、迷うと面倒だと判断し、結局、駅に戻ってもう一度切符を買い直し、1駅だけ移動することにした。


今度こそ予定のギザ駅に降りるとバスの看板を見つけ、その方向へ行く。


あった。


バス、というか、ミニバス、いや、ハイエースだ。


人でごった返していて、さらにはアラブ語表記のみなので、どれがどのバスなのかさっぱり分からない。


こういう時はとにかく運転手らしき人物にミニバスを指差して聞くのが一番早い。


「ピラミッ?  ピラミッ?」


すると、ピラミッド方面はこっちのバスだ、的な案内をしてくれる。行った先のバスがすでに満員で、次のバスに案内された。こちらもハイエースだから10人ものればいっぱいだ。


なんとか1番前の席に座り、バックパックを膝の上にのせ、すぐに渡せるように手には支払い用の30円ほどのエジプトポンドを握りしめた。


アメ横のような賑わいの駅前。


次第に満員になり、出発。外国人はぼく1人だ。


賃金は後ろの座席の人から前の人に手渡し、運転手に届ける決まりのようで(どっかの国でもあったな)、ぼくは1番前なので全員分の賃金を渡す役目だ。
背後から運転手の方をトントンと叩き、スッと差し出す。彼は片手でいくらあるのかを確認するとそれをしまった。


駅前の、デコボコの土の道路を行く。


前方が詰まっていようが、歩行者がいようが、とにかく無意味に思えるほどクラクションを鳴らしまくりながら進む。いや、もう、どの車がクラクションを鳴らしているのかは判別不能だ。


駅前のデコボコの道を過ぎると、ようやく片側二車線のアスファルト道路に出る。


途中で降りる人がいて乱雑に停車と発車を繰り返しながら6キロほど進み、ぼくが降りるギザに到着。




降りたのはぼく1人。





あっという間にボロボロのハイエースは埃を巻き上げながら走り去っていく。
街中を走るアトラクションにでも乗ったような気分だった。


そこから10分ほど大通りを歩けば宿に到着。


道は朝にも増して道路がゴミと埃で汚れまくっていた。


宿にチェックインする。


海外の旅の時、初日と最終日は綺麗な宿を取ることにしている。体をしっかり休めたいからだ。
ここは評価通り、とても綺麗で設備も十分だった。
オーナーの奥さんが日本人とのことで日本人客も多い。
さっそく玄関で日本人の20代らしき男性2人が何やら靴をペットボトルの水をかけて洗っている。


「こんにちは。何してるんですか?」と背後から声かけてみると、


「ピラミッドでラクダの糞を踏んでしまって、宿を汚すのも失礼だから、落としているんです。」


「そ、、、そっか」


さすが日本人。


しかし、ぼくは気をつけて歩いていたのでラクダの糞は踏んでいない。
宿で1時間ほど一休みし、夕飯を探しに出かけることにした。
「コシャリ」と呼ばれるエジプトのソウルフードがあるらしい。


情報によるとコシャリとは、『エジプトの国民食で、米やマカロニ、スパゲッティ、レンズ豆、ヒヨコ豆などの食材を混ぜてトマトソースをかけ、揚げた玉ねぎをトッピングした料理です。アラビア語で「混ぜ合せる」という意味があり、スパイスを利かせたトマトソースや、酸味ソースのダッアや辛味ソースのシャッタを加えて好みで混ぜながら食べます。日本でいうところのラーメン的に人気があり、店によって味が違う。』そうだ。


ピラミッドのチケット売り場通りにケンタッキーをはじめ、コシャリ屋、レストランがいくつかあったのでそっちへ行ってみる。
さすがに夜の7時近くになるとチケット売り場には人はなく、ケンタッキーもすでに閉店していた。


あった。コシャリ屋だ。


店と外の間にガラスや戸はなく、まるで東南アジアの定食屋のように開放的かつ庶民的な佇まいに、つい引き込まれる。


外にメニューがあり、しかしアラブ語のため全く読めないが翻訳するのも面倒なので店内入ってみると、笑顔の陽気な、店主と思われるお腹がどっぷり出た男性が出迎えた。


「どうぞ、入って」


笑顔とジェスチャーからそう言ってくれたのだと察する。
「英語のメニューはありますか?」



と聞くと、アラブ語メニューの裏面にあった。


コシャリのMサイズを注文。50EGP。約200円。
それとペプシ。合計250円くらい。


まあまあ人気があるお店のようで、店内にも何組かの客、あるいは持ち帰りの客がやってくる。


店員が作っている様子や他の客の様子、通りを歩いていく人々を眺めながら、エジプトでの初めての夜に溶け込んでいく。
5分ほどで、コシャリというやつが運ばれてきた。
全くもって不衛生なスプーンを一応服で拭き、少しばかりきれいになった気持ちで、コシャリを一口。




うっ!

これは苦手な味だ。

食べたことのない味。酢が強い醤油味にコーンフレーク的な食感の米を入れてある感じ。


食べるたびに体が震える。
しかし、一口、二口で残す訳にもいかない。
テーブルに置いてあった味変用のソースをかけて、なんとか食べる。
ペプシで流し込む。


店主のおじさんに「うまいか?」的なことを聞かれ、つい、
「グッ!」
と言ってしまう。


なんとか完食し、これではなんだかお腹が満たされた気がしないので周辺に他の店を探してみるが、このようなローカル食堂はなく、手軽に入れそうもないので、その日は諦めて部屋でチョコバーでも食べることにした。


夜――その日は、ピラミッドがライトアップされる日であった。


屋上に立ち、少し生暖かい風が頬を撫でるのを感じながら、ぼくは闇の中に浮かび上がるピラミッドを見つめた。クフ王、カフラー王、そしてメンカウラー王の三つのピラミッドは、奇妙にもカラフルな光に彩られていた。しかし、古代文明に似つかぬその異様な照明にもかかわらず、それらの堂々たる姿は、これまでぼくが人生を通して抱き続けた憧れの対象として、一分一厘たりとも変わることはなかった。それらは、静かに、確固たる存在感をもって、ぼくの視線を奪い続けていた。
エジプトの初日。早朝から夜に至るまで、ぼくは全身で夢と冒険を味わい尽くしていた。

旅人の心の中に漂う疲労と静寂は、まるで古代の砂漠に沈む夕陽のようでもあった。

おかやんの「とりあえず何でもひとりでやってみる」ブログ。

やりたい事は悩みながらなんでもやってみる。結果的に楽しんでる!また、何かに特化して書いているわけではありません。 書きたいことをごった混ぜにしてネタをブチ混んで書いていますhttps://www.instagram.com/the_unending_world/?hl=ja

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