新世界紀行 エジプトの旅⑦ 昼飯食えーず。

三大ピラミッドを背にしながら、広大な荒野を歩む。この荒野は、まるで海原のごとく広がり、展望スポットへと誘っていた。


荒野の中での距離感は曖昧であるが、メンカウラーのピラミッドからおおよそ三百メートルほどだろうか。視界の彼方には、ラクダの群れが浮かび上がる。しかし、それはキャラバン隊ではなく、観光客を乗せて歩くラクダ屋の一団であった。それでも、遙かなる過去を彷彿とさせる雰囲気は、ぼくに十分な感興を与えてくれた。


展望スポットは、三大ピラミッドが一望できる場所で、多くの観光客が各々のポーズで写真を撮っていた。ぼくは少し離れた土留めの壁に腰掛け、一息ついた。その瞬間、エジプトの地に立つ実感が胸に湧き上がってきた。

イヤホンから流れる「藤井風」くんの「grace」。その音楽に身を委ねながら、ぼくは自分の人生の一幕をここで感じていた。目の前に広がる光景は、まるで夢のようであり、日常の雑念は一切消え去っていた。その曲は、遠い群馬の地から、このエジプトの荒野へとぼくを連れてきてくれたのだ。



涙がこぼれそうなほどの感動に包まれながら、ぼくは両親のことを思い出した。
本当なら、母や父をここに連れてきたかった。海外の旅から帰国するたびに写真を見せ、一緒に旅の話をするのが楽しみだった。


英語を駆使して旅をする息子の話を、親父は誇らしげに聞いてくれた。
「すごいな」――そんな言葉を父親から聞いたのは初めてだったかもしれない。多分、ぼくが喜ばせることができたのも、あの時が初めてだったんだ。
だから、ぼくは嬉しかった。



一度も尊敬したことのない父親なのに、その一言が心に響いた。なんでだろう、こんなに嬉しかったのは。いつも厳しくて、近寄りがたい存在だった父親。でも、その瞬間だけは、違った。


海外の写真を見せるようになった頃には、親父の体はもう健康ではなくなっていた。外へ出かけることもできない。だからこそ、ぼくが見てきた世界を、写真や土産話を通じて伝えたかった。ぼくの視界で撮った写真を見せて、彼の知らない世界を見せたかったんだ。


でも、もう親父はぼくの旅の話を聞くことはない。だけど、まだ母親がいる。彼女にぼくの見た世界を話せる。母親は健康で、ぼくの話を聞いてくれる。


ぼくの人生も、どうやら佳境に入ってきたようだな。そう思いながら、これからも旅を続ける。親父に聞かせたかった話を、母親に伝えながら。ぼくの人生の続きを、彼女に見せるために。

心の中の感傷を収めたところで、次なる目的地である「カイロ博物館」へと向かうことにした。ツタンカーメンの黄金のマスクを見るために。
ラクダの群れと共にピラミッド群を眺めながら、今度は少し冷静な気持ちで歩む。
ギザ地区に再び戻る予定があることを心の中に留めながら、再びスフィンクスのゲートまで戻ってきた。



正午に近づくにつれ、街の活気は増していった。「スフィンクスの視線の先にはケンタッキーがある」の文言で有名な「ケンタッキー、スフィンクス前店」へと足を運んだ。二階の席に座り、ピラミッドを眺めながら昼食をとるつもりだった。



前の家族連れが注文に時間がかかっているようだがどうやらレジは空いていた。
何を食べようか、とメニューを見ながら考えていると、何やらレジで口論が始まった。


店員と家族連れのおばさんがかなりの口調で言い合っている。


事前にエジプトの文化を学んだ時に、言い争いが日常茶飯事であることを知っていたが、目の前で繰り広げられる光景には驚きを隠せなかった。翻訳機を使って内容を理解しようと試みたが、双方の激しい言い争いに翻訳が追いつかない。



時間にすればわずか1〜2分だろうか、1分間でも両者がノンストップで言い合う量は多い。


傍観していたが、おさまるどころかヒートアップしてきている。


言い合いをするおじさん店員の後ろでは困った様子の女性店員数名が見守る。
客の家族つれは5名ほどだろうか。一向に引き下がらない。
ぼくはぼくで何か食べたいので、1人の店員に、注文はできないか、と聞くと


「ワン ミニッツ」


と言われた。



???


1分のこと??


どうやら雰囲気からして、少し待ってくれ、的な意味らしかった。


仕方なく終わらない喧嘩を見ながら待つ。


ああ、この家族のあと5分でも10分でもこ早くくれば注文できたのになあ、と不可避だった想定外の出来事に失笑する。


よくまあ、こんなに言い合うなあ、と思いながら、これは多分しばらく終わらないだろうと察知して、ケンタッキーでの昼食を諦めることにした。


結局、何が理由なのか、いつ終わるのかも全く分からず、ケンタッキーでの食事を諦め、通りを歩き始めた。何か食べたい当てがあるわけでもなく、タクシーを呼んでカイロ博物館へと向かうことにした。



おかやんの「とりあえず何でもひとりでやってみる」ブログ。

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