ウズベキスタンの旅㉕ ブハラの宿へ

時刻は15時10分。

ブハラ駅に到着し、乗客が降り始める。

私はバス停に案内してくれるという隣の女性の後をついて行くことにした。


大勢の乗客と共に線路を横切って歩く。まるで戦国時代の戦のように、その大勢の客たちに向かってこれまた大勢のタクシーの客引き達が向かってくる。



「タクシー?! タクシー?!」



そのうち客と客引きが入り乱れてお祭りのような混雑となった。
ウズベキスタンに来て、3都市目。他の都市では夜に到着したため、ブハラでのタクシーの客引きの多さに驚いた。



女性の後をついて行くといつの間にか駅の外に出ていて、砂埃で茶色く汚れたアスファルトの駐車場に無数の車が乱雑に停車していた。
どうやら「駅前」のようだ。


その駅前から一本の幹線道路がまっすぐ伸びている。




女性が立ち止まって、おそらくそこらのタクシー運転手にバスについて聞いてくれていた。


ここで待っていればやってくるという。


するといつの間にか、女性の隣には恋人の男性が立っていた。彼女の到着を待っていたのだろう。



私は悪いと思って礼を言い、もう大丈夫です、ひとりでバスを待ちます、とポケトークで伝えた。



その間にも私という外国人の金目当ての客引き達が「俺のタクシーに乗れ」としきりに言ってくる。


そのうち運良く、目的の番号のバスがやってきた。


乗客全員が降りた後、乗り込もうとすると運転手に停められた。


するとドアが閉まり、そのバスは駅前から走り去ってしまった。
どうやら回送だったらしい。


するとまたどこからかタクシー運転手がやってきて、


「もうバスはない。タクシーに乗れ」
と言う。



そんなはずはない。


【もうバスはない。俺のタクシーに乗れ作戦】はインドではタクシー運転手が客を捕まえるためによく使うだまし文句だ。
しかし。


そのときの私は初めての都市に到着したばかりの若干の緊張や不安があり、かつ、案内されてきた身のため行動に対して受動的となっていた。
加えて「こんな時間に回送するだろうか、もしかすると本当に運行が終了してしまったのかもしれない」という思いがよぎる。


べつにタクシーでもいいが、ぼったくる客引きのタクシーには乗らない。
アプリで正規料金のタクシーを呼べばいいだけだ。


すると客引きのひとりが、


「そのタクシーは高い。俺のタクシーのほうが安い」


などと私のスマホに向かって言い出す。


聞けば確かにアプリより安い金額を提示した。そんなやりとりをしていると他の客引きたち数人も私にタクシーに乗る気があると分かるとやってきて、そうだ、ここでタクシーに乗れ、と軽い騒ぎとなる。


私は、案内してくれた女性を困らせるのも悪いと思い、


「わかった、じゃあ頼む」と客引きのタクシーに乗ろうとした、その時だった。


女性が私のスマホを指さし、ポケトークを要求した。


「私たちのタクシーに乗って。宿まで一緒にいくわ」


「本当?!」


男性を見ると、こっちだ、と手招きをしている。


私は慌ててそちらのタクシーに向かった。


私という客を横取りされた運転手は、


「おい、まじかよ!」


というような落胆の声をあげていた。


私は助手席に乗りこみ、カップルは後部座席に座り、タクシーは駅前の一本道を走り出した。


目的地の宿を運転手に伝えた後、私は男性に名を名乗り、「日本から来ました。ありがとうございます。」とポケトークで伝えた。


宿まで15分ほどだったろうか、彼らとは会話は持てなかったが、タクシーを降りるとき自分の分の料金くらい払おうと男性に金を渡すと押し返された。



「・・・ありがとう。」


私はそれだけ伝えて、走り去っていくタクシーを、見えなくなるまで見送った。
SNSの時代なのに、彼らとはもう二度と会うこともないし、話すこともない。
そういう刹那や寂しさが旅に彩りを添え、忘れられないものにしてきてくれたのだ。


いつでもすぐに連絡を取れる、という時代になり我々は、そういった感情を失ってきた。


だから私はあえて、旅先で知り合う土地の人々とはできるだけSNS等を交換しないようにしている。


いつでも連絡が取れる状況は旅をなんだかつまらないものにさせてしまうからだ。


もう会うことはないだろう、という覚悟が、その時間をずっと記憶の奥に残してくれる。


彼らにとっての私はどんな風に映っていたのだろうか。


それすらも分からないが、ご厚意があったということには違いない。


それがただただありがたいのだ。





そういえば、この宿へ向かっている最中、私が乗りたかった378番バスはしっかり走っていて、駅の方へ向かうそのバスとすれ違った。
あの時、駅前で待っていても数分もすればちゃんとやってきたのだ。














おかやんの「とりあえず何でもひとりでやってみる」ブログ。

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