巴里組曲⑧


谷川とミヒャンは、凱旋門から伸びるシャンゼリゼ大通りを歩いた。 日本とは比べ物にならないほど規模の大きい、そしてきらびやかなイルミネーションが通りの木々を飾っている。



観光客と車が溢れかえる道を歩き、エッフェル塔が見えるセーヌ川を目指した。


アパルトマンの隙間から黄金の塔が見えた時は再び2人は興奮の声を上げた。  10分ほど歩くとセーヌ川が2人の視界に入る。ここでも多くの観光客らが写真を撮っていた。 



誰もが知っている国フランス、その首都パリ。

そしてエッフェル塔。1889年のパリ万博のために設計、建築された塔で言わずと知れたパリのシンボル。テレビや雑誌ではよく見かけてはいたが、この目で実際にその姿を見ることになるとは思ってもみなかった。


一人旅という醍醐味として、全て自分で計画し、調べ、ここまでやってきた。そのプロセスや達成感が脳裏にあり、そうしてやっと辿り着いて見るこの光景は夢の世界のようであり、パリの歴史的景観の中に立つこの黄金があまりにも美しいすぎるものとして彼の目に映っていた。


そしてそれを、空港で出会った韓国出身の女性と2人で眺めることになるとは想像もしていなかった。


そこに時差ボケ、疲れ、眠気が加わり、思考が麻痺して何も考えられない。それらがアドレナリンのようにフワフワと気分を良くし、ただただぼんやりとパリへ来たこの現実を愛おしく感じるばかりであった。  


時間はもうすぐ10時。今日の観光はここまで、ということにして近くの地下鉄で戻ることにした。  


彼女のホテルの部屋まで送り届けるとすでに11時になろうとしていた。  


日本で朝5時に起きたので、時差を考えるとすでに25時間も起きていることになる。明日の朝は起きられるかどうか不安があったが、パリでの時間を無駄にするわけにもいかない。


明日は午前中からオルセー美術館に行く予定だったのでそれをミヒャンに伝えると、一緒に行く、という返事だった。  


「じゃあ、また明日会いましょう」  


彼女のそんな言葉を谷川は半信半疑、微笑みで受け止め、部屋を後にした。女性の気持ちがすぐに変わることを経験で彼は知っていた。


ミヒャンは彼がエレベーターに乗ってその姿が見えなくなるまで、部屋のドアから見送り、姿がみえなくなってそっとドアを閉じた。  


谷川は、その時初めてパリに来てひとり行動になり、ようやくここへ一人旅に来たことを実感したのだった。


長く長い1月1日、元旦だった。誰もいない、小雨で濡れた石畳の通りに彼は「パリ、か」と小さく言葉を放った。  


つづく。


おかやんの「とりあえず何でもひとりでやってみる」ブログ。

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