巴里組曲①


 長期休みが取れる度に、東南アジアの各国の遺跡群、そして混沌の国インドを巡ってきた。

 それらの冒険の旅の終着として、最後にピラミッドをはじめとするエジプトの遺跡群を見て完結させてやろうと考えていた。


 2017年11月、例によって「地球の歩き方 エジプト」最新版と「るるぶ エジプト」を近所の図書館で借り、行きたい都市や治安情報、あるいは航空券やホテルの値段などの下調べを開始し、許された日程でどのように都市間移動や観光をするのかを練った。 


  しかし、 調べて分かったこと。

 エジプトの観光にはタクシーが主流らしく、そのタクシーの料金交渉がとても面倒らしいのだ。

 大衆ガイドブック「るるぶ」にさえ、現地の相場などあってないようなものです、と書かれているではないか。そんな文化など、東南アジアで十分に味わってきたのだけれど、その都度交渉しなくてはいけない面倒臭さに少々嫌気が指していた。


 それに加え、取れる日程の中で、行きたい都市、遺跡をスケジュールに組み込むとどうしてもタイトになってしまう。


 ミャンマーの旅が結果的にタイトであったので、今回は少しゆとりを持ちたいとは思っていた。 そこでエジプト行きの計画を一度眠らせて、他に行きたい国はないかと考えることにした。  


 そして2017年12月上旬。

 オレは、新年にフランスのパリへ行くことを決めた。理由は、好きな作家の辻仁成さんがパリ在住で、ツイッターなどでパリでの生活を発信していて一度は行ってみたいと思っていた。


 そんな時にツイッターを見ていてふと、 「そうだ、パリへ行こう」 と思い立ったのだ。  


 2018年元旦、夜明け前、地元、ニューイヤー駅伝の号砲を待たずしてオレは成田空港へ向かった。  到着は9時過ぎ。パリ行きの便は11:05。予定通り約2時間前に着くことができた。



 毎度のことだけれど空港という場所へ来る度に、これから別の国へ行く、という高揚感で鼓動が早くなる。  20分ほど列にならんで荷物を預けた。今回は久々にバックパックではない。2泊3日用のスーツケースだ。それだけで旅がずいぶんおしゃれに思える。 


 次に、円をユーロに換える。 1月現在、レートが1ユーロ139円という激しい円安。3万円を換えてもたった210ユーロ程度にしかならない。


 日本人金持ち説はアジアにだけ通用し、ヨーロッパには到底敵わないと知った。 空港内で催されている獅子舞のイベントなどを少々拝見し、ほんの少しでも日本の正月を味わい、手荷物検査場へ。 出国審査を経て、搭乗ゲートへ。  待合所のテレビが、ニューイヤー駅伝を映していた。こんな慌ただしい新年よりも、来年は家でゆっくり見ようなどと思ってしまう。  



 搭乗が開始され、ゲートに長蛇の列ができる。毎度のことだが、どうせ乗れるんだからなんでわざわざ立って並ぶのだろうと思う。座ってゆっくり待っていればいいのだ。 

  


 エール・フランス航空、275便。もちろんエコノミー席。

本当は窓側の席が景色が見れて好きなのだけれど、なにせトイレに行くだけで隣りの人に声をかけて席をどいてもらって、戻ってきてまたどいてもらって・・・というのが面倒。


 よって窓はないが、前方に座席のない緊急脱出口そばの座席を確保しておいた。 機内へ入りその席を見つけると、三列シートの真ん中が空いている。

 

 これは隣りに誰もいないという快適さで14時間もの空の旅を過ごせるということではないか。ツイてるなあ、マジで良かった。などと思って離陸を待っていると、離陸直前になって日本のサービスには到底敵わないエール・フランスの愛想のないCAが、まるでボブサップかのような巨体の黒人男性をどこからともなく連れてきて、オレの隣りの席を指差した。 


 まさか、他の席ではあまりにも窮屈すぎるので「緊急脱出口の席が空いていますので良ければ移動してかまいません」的なことを言って連れてきたのか。  


 その巨体は、どすんとオレの隣りに座る。

 しかし彼の巨体はとてもエコノミークラスの席には収まらず、満員電車のドアを押しこくって閉める駅員さながら、みずから足やお尻を無理矢理そのサイズにキュッとすぼめて席に入れた。
 はみ出した上半身とその腕は肘掛けをゆうに超えてオレの席の幅を侵食してくる。よってオレはエコノミークラスの小さな座席の中でさらにすみの方へ体を寄せなければならなかった。 


 しかし、オレとて年齢と経験を無駄に重ねてきたわけではない。心も若い頃に比べてずいぶん広くなった。 そう、彼の体がデカイのは何も彼のせいではない。 エコノミー席がこんなにせまいのも何もこの飛行機だけではない。高額のビジネスクラスを取れとも言えない。 ここは、気持ちを広く持ってパリまでの14時間を過ごそうじゃないか。 



 彼をそんな風に気にしていると、その彼の左隣の日本人がモニターのイヤホン差し込み口が分からずにいる時にそっと指差して教えてあげるではないか。笑顔も、その巨体に合わぬかわいさである。 



 だけどまあ、おかげでオレは、到着までの14時間もの間、常にその巨体の彼とまるで恋人かのように肩と腕をピタリとくっつけていなければならなかったのだが。  



 とにかく14時間かけてオレはパリ、シャルル・ド・ゴール空港へ到着。
その直後から物語の創作意欲を刺激され、一人旅の中に、架空の人物を描いていくようになった。


 そしてオレは、日本に帰着するまでその物語と共に過ごすことになる。  



 オレが歩いてきた実際のパリの旅を題材に、「谷川」という名前の架空の人物の視点に変えたフィクションの物語を次回から送ります。 


つづく。





おかやんの「とりあえず何でもひとりでやってみる」ブログ。

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