総登山時間 8時間20分
登山口駐車場 6:30
出発 7:00
大明神 7:50
道行山 分岐8:30
小倉山 9:10
百草の池 10:00
駒の小屋 10:35
駒ケ岳 頂上 11:00
駒の小屋 昼飯 11:40
登山口駐車場 帰着14:50
登山口駐車場にて車中泊。 他の車の、ドアを開け閉めする音で目が覚めた。
早くも山へ向かう人達が準備を始めたようだ。
時間は、、、まだ五時半。 外はまだ薄っすら暗い。誰かライトを持っているようで、その光線が朝霧を照らしているのが見えた。
すぐ後ろのミニバンの方が、なんと外で火をおこして暖を取っている。
オレも六時には出発しようかと思っていたが、かなりの眠気と外の暗さでそれは早くも諦めた。
後部席で羽毛布団にくるまり、ウトウトした後、再び起床。
六時。外もだいぶ明るい。
車外に出ると、思ったほど寒くはない。これから登山という高揚感も助けているのかもしれない。
火を起こしているおじさんに挨拶をすると、そこから話が始まった。
どうやら登山に来たわけではないらしい。 聞くと、定年退職後に車中泊旅を一人でやっているらしく、神戸から来ているとのこと。ここの駒ケ岳登山口駐車場にはもう10日間くらい滞在しているらしい。
その理由が、ここが雲海を観ることができる名スポットということだけれど、なかなか気象条件が整わず、10日間も見れない、と言っていた。
確かに、登山とは思えぬカジュアルな服装の方々が多い。
みなさん、雲海ツアーの方だそうで。 でも雲海、現れず残念。
もう一方、オレが支度をしているとすぐ隣りのスペースに車を止めた方がいた。 挨拶をして、会話をしてみる。新潟の長岡からいらしたというKさんだった。 オレと同じくひとり登山。着いて早々に準備をして、行ってしまった。
オレもさっさと準備をして行かねば。 Kさんに遅れること15分、登山口を出発。
雲海の写真をねらっている方々がいるが、今日は見れなそうだ。
アップを兼ねて、ゆるやかな斜面をゆっくり足の具合を確かめるように登っていくけれど、夏以来の登山なので、太ももの筋肉が早くもパンパンになる。 なんとか15分ほど登った場所で、先程のKさんが休憩している。
「スローペースなので、お先にどうぞ。」
とのことだったが、オレもかなりしんどい・・・。 なにより話していると、Kさんと一緒のほうが楽しいのではないか、と感じた。これはもうフィーリングなんだけど、性格が合う合わないの感覚だ。 ということで、Kさんと仲間になった。
2人で歩いていると、他の野郎どもにどんどん抜かされていく。
みなさん、朝から下半身が元気なようです。
・・・。
山の上のほうを見上げると木々が真っ白。聞いてはいたが、霧氷というのが見える。
霧が木の枝に雫となって固まり、それが凍ってまるで花が咲いたかのように白くなるのだ。
あれが溶ける前に行こう!とKさんと2人で張り切る。
しかし、見上げる頂上は遥か先。 本当にあんなとこまで行けるのか?
休憩を取りながら、あるいは2人して風景の写真を取りながら上り、紅葉と霧氷のコラボの絶景にポイントまで到着。
ネットや雑誌で見聞きし、自分が想像していたよりもすごい景色がそこにある時、頭の中にある何か色んなものがすーっと消えていって、その景色に心まで入り込んで行くような、そんな感覚に堕ちていく。
オレにとって登山の醍醐味の一つに、いつもそれがあった。人間の本能的にきっと分かるんだろう、これが人間の力なんて到底及ばないものだと、そして人間の力なんて大自然の前では無力なのだと。
あまりにも無力過ぎると、頭の中が空っぽになる。それが、時にものすごく気持ちいいんだ。
バンドをやっていた頃はきっと、その活動そのもの全てが苦悩でもあり、快楽でもあった。
詩や絶妙な部分アレンジ、音量、音の高低など悩みに悩んだあとに完成するものは最高だった。
そして登山にも似たようなところがあって、体中にアドレナリンが流れる時がある。
「うわーすげー! ホントすげーなー」
二人して、そんなな言葉で盛り上がる。
燃えるような紅葉の赤や黄色に、霧氷の白色が乱雑に混ざり合って、まるでそこが巨大な油絵のような・・・、言うならばゴッホが描く荒々しい色彩のような存在感でオレたちの前にそびえている。
ずっと見ていたい気持ちもあるが、きっと頂上にあるであろう、それを超える景色を見に先へ進む。
まだか、まだか。 まだ着かないか、、、と思いながら頂上の直前にある山小屋、「駒の小屋」に到着。
もうシーズンが終了し、山小屋は営業していなかったが、そこから直前にせまる頂上が見え、豆粒のような登山者が見えた。
近そうで、距離はまだあるようだ。山での距離感はいつも曖昧になる。
Kさんと共に、休憩をし、呼吸と体力を整え、先行く登山者の後を追う。
頂上から下って来る人とすれ違うたびに挨拶と情報交換をするが、頂上は強風で、寒くてとても長居はできないとのこと。
写真を撮って下山、で精一杯らしい。
ついに到達。
銅像がたっている。
エクスカリバーを持っていたらしいが、すでにFF5のバッツに持ち去られていた。
頂上には10人ほど。
やはり下から上がってくる風が氷点下のためかなりの冷えだ。
そのため、皆、少しばかりの写真を撮ったあとはすぐにまた下山しているようだ。
それなのに、Kさんと写真を撮り終えたころ、それは起こった。
半袖Tシャツで登頂してきたオッサンが現れたのだ。
もしこれがドラクエなら、倒して仲間にしたいところだが、グッとこらえ、
まずは「この人一体なんなんだ」という視線をぶつけてみる。
いや、それはオレだけではない。
このオッサン、山頂にいる人全員の視線を欲しいがままにしている。
そこにいる全員の視線を一斉に浴びれるのは東京ドームのジャニーズライブかこのオッサンのどちらかくらいだろう。
そして人間社会には何事にも「空気」という名の「雰囲気」があるものだが、Kさんがそんなものをぶち壊してこう言った。
「・・・寒くないんですか?」
Kさんはその瞬間「山頂代表」となった。
山頂の全員の頭に浮かんだ疑問を代弁してくれたのだ。
するとオッサンは言う。
「駆け上がってきましたからね、暑いですよ」
「・・・。」
そうは言うが、この方、見た目は65歳くらい。
登山に来るといつも強者に出会う。倒して仲間にできなそうなので諦めて先程の小屋までもどり昼食。
三時間半ほどかけて、Kさんと談話しながら下山。
駐車場手前まで戻ってくると紅葉目的の方々数名とすれ違う。
「わあ、山頂まで行ってきたんですか?」
と、ひとりのおばさんにそう声をかけられる。
よほどオレから山頂到達者のオーラが出ていたのだろう。
そしてオレは答えた。
「もちろんです。スポーツマンですから」
「・・・・。」
駐車場へ帰ってくると、雲海目的10日間滞在のおじさんが待っていた。
今日もここで車中泊をするらしい。でも、雲海をそろそろ諦め、山を下り、日光へ向かうとのこと。どの道が一番良いか聞かれ、Kさんと共に案を出す。
車中泊で日本全国を旅しているなんて、なんて粋なんだろう。
ちょっと憧れる。
そこらにいるオッサンと違って、自分のことばかりを一方的に話したがるタイプでもない。
冷静さを持ち合わせていて、ちゃんと会話が成り立つ。
もうちょっとその旅について話を聞いてみたい気もした。
おじさんの表情に、どこか寂しさが見えたから。
このおじさんとは、もう二度と、一生、会うことはないだろう。
例えすれ違ったとしても気付くことはないだろう。
一期一会ってやつだろうか。
いつもオレたちは、生きる上で、小さな寂しさとお別れを背負って先を急がねばならない。
おじさん、どうか元気で。 また会いましょう。
Kさんとは次に、群馬赤城山に行きます。
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