プリア・ヴィヘアを去り、次の遺跡へと車を走らせる。
窓の外に見える景色は、どこまで行っても同じ。
どこまでも続く赤土の平野か、時折通る小さな町や村。
荒れ果てたような部落に通りかかると、こんなやつら↓が出てきそうな気さえする。
しかし、万が一出てきたとしてもオレはまだ「北斗神拳」を使えない。
お昼、1時に差し掛かる頃、お昼にしようか、なんて話していたらミスターマオ神妙な顔つきでこう言う。
「ワタシは、トゥクトゥクドライバーになる前は、トラックのドライバーだったんだ。だからカンボジア中を走っていたんだ。」
「だから道に詳しいのか」
「ああ、このあたりは何回も来た」
「昔、いつも寄ったお店がこのあたりにあるんだけど、行っていいか?」
そこは、日本でいう「むか〜しの商店街」みたいな場所で、トタン屋根にコンクリート敷き、ドアは無く、シャッターで閉めるだけの簡素なお店がいくつか連なっているところだった。
実際、やっているのかやっていないのかわからないがシャッター通りになってしまっている。
車を停め、ある店に入る。お客は皆、何かドリンクを飲みながらスマホをいじっている。一人一席一テーブル、個室ではないがなんだがネットカフェのようにも見て取れた。
ミスターマオと四人席に腰をかける。
「何か食べるか?」 と彼がこちらを見た。
注文できるようだ。しかし、お店の中の何から何までクメール語。ここが何屋なのかもオレには分からない。
それはともかくオレはカンボジアの暑さで食欲はなく、リュックにプリングルスを持ってきていたので少し口にしようと思っていた。食べ慣れたスナック菓子なら少しは食べれるし、なにより塩分とカロリーを摂取できる。それらがないとさすがに体にきつい。
ミスターマオはというと、なんとお弁当を持ってきているという。
「朝もこれ。そして、お昼もこれだ」 と言って、またひとりでガハハ、ガハハと笑った。
見ると、鶏肉と白飯と野菜がパックに入っている。
「何かドリンクは?」 と彼がまた聞いてくる。
「水があるから」と返すと、
「何か飲みなよ。コーラ。おごるから」 と言う。
甘いものを飲むと、余計のどが渇くのだが、これは彼の好意だ、頂くとした。 が、店のおばさんが持ってきたコーラ缶。常温。 一緒に持ってきてくれたグラスには氷が満タンに入っている。 これに注いで飲むのか。。。 今まで腹は壊してないが、ここでカンボジアの水を飲んで腹を壊したらこのあとの長旅がつらいだろう。。。 と考えて、缶コーラを常温のまま胃に流し込む。。。
彼がお弁当を口に運びながら、コーラを持ってきたおばさんを見て、
「あの人のこと、よく覚えているんだ。 ワタシがトラックドライバーの頃、ここへ来てはよく話してたのに、しばらく来ないうちにワタシの顔は忘れたかな。気づかれなかったよ。」
と珍しく真顔でそう話した。
ここはどんな町なんだろうか。店の外をぐるっと見渡しても、赤土の埃にまみれたアスファルトの道が続いているだけで、あとは森が広がっている。
本当に、ドラクエの世界の町のようだ。外に出たらモンスターがいて、隣りの町までは命がけで行くほど離れている、そんな雰囲気なんだ。
「話しかけてみれば?」 と彼に伝えると、「いや、いい」と首をふった。
そこに何か心残りがあることは、ちいさく微笑んだその表情から見て取れた。
店内奥で、アンコールビールの箱を担いで仕事をしているおばさんを見てみる。彼と年が近いような気もする。おばさんと呼ぶにはまだ早すぎるような気がした。
ミスターマオは黙ったまま、店の奥のテレビをみながら弁当を大きな口にかけこんだ。
「さて、行こう」 彼が立ち上がる。おばさんがやってきて、彼は料金を渡した。やはり、よく見るとまだ20代にも見える。色黒の肌と、赤土で汚れた服が年齢をかなり上にみさせていたようだ。
「また、来よう、かな」 車に乗り込み、ミスターマオはバックミラーに映る店を見ながらそうつぶやいた、、、ような気がした。
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