カンボジア③ トゥクトゥクドライバー、ミスターマオ

  翌日、ホテルのビュッフェ朝食を済ませる。日本人も数組見られた。女性二人が多いようだ。これくらいがオレにはちょうどいい。  


海外で、オレがちょっと嫌うことは宿泊先に日本人が多いこと。せっかくの異国なのだからその異国に浸りたい、というのが一番の理由だ。


よく日本人が経営するゲストハウスで、宿泊客の多くが日本人、という場所もあるようだがちょっとオレには耐えられそうにない。特にゲストハウスはその価格の安さにメリットがあるため学生や20歳そこそこの若者が多いらしく、彼らの社会性が身についていない言動とはどうしても合わない。


一度、日本のゲストハウスでそんな団体と一緒になり心底懲りた経験がある。まあ、オレも社会性があるとは言えないが、マナーや礼儀や言葉使いはわきまえているつもりだ。  


今日はアンコールワットやアンコールトムに行くことにしている。そのためには、足が必要だ。カンボジア観光の足といえば、トゥクトゥク。原付きで馬車のような車両を引っ張って走る、タクシーだ。


料金はすべてドライバーとの交渉で決まり、観光客、特に金を持っていると東南アジアで超有名な日本人はぼったくりの対象となる。そして、なんや知らぬ人は、それを払ってしまうのだ。  


ホテル玄関前にトゥクトゥクが数名いるのは分かっていた。ホテルで囲っているドライバーなんだろう。  玄関を出る。来た来た。すぐにドライバーが寄ってくる。 

 「どこ行くんだっぺ?」  

その男、カンボジアだから当たり前だが色黒、そして大柄で口ひげを生やした、見るからに怪しい男だった。 

「・・・アンコールワットとトムと周辺に行きてえズラ。」 

「それなら20ドルだっぺ。」  

さっそくだが、ずいぶんなふっかけ様だな。

「地球の歩き方」でも半日チャーターで15ドルくらいと書いてあるぞ。 

「いや、それは無理ズラ。10ドルじゃないとダメだ。」 

「それは無理だっぺ。20ドルだっぺ」 

「じゃあ、他のドライバーを探すズラ」  

というお決まりの料金交渉をして、一度は断って、立ち去ろうとするとドライバーが追いかけてきて、 「

分かった、じゃあ15ドルでどうだっぺ?」  

という風に、それなりに下げてくる。結局10ドルで乗車。  実際、それが適正価格なのかは不明だが、ガイドブックに従っておけば納得もできるし、必要以上の交渉は時間の無駄と異国において心理的負担が大きい。  二人以上で割れば一人当たり4〜5ドルなどと安くなる計算だ。チャーター終了時に金額を払い、ドライバーは客が観光中は、昼寝をしていたり、飯を食っていたり、友人ドライバーと談話している。また、トゥクトゥクは時間ではなく、移動距離で金額が決まるようで、10ドルは日本円で1000円ちょっと。一日2000円ちょっと稼げればいいほうなのかもしれない。そう考えるとカンボジアの所得が垣間見える。    


選んだドライバーとは結局、旅の数日中の移動をすべて任せることになり、彼の親戚の子にも会えたりと、旅の良い出会いの一つとなる。  

後で聞くことになったが、彼の名はMao(マオ)。おそらく苗字なんだと思う。最後の日に名刺なんぞもらった。    


彼のトゥクトゥクに乗り込み、朝日を浴びながらホコリと生臭さの混じったシェムリアップの風を浴びながらアンコールトムへ向かう。  


トゥクトゥクをチャーターし、サングラスをかけて、さっそうと行動している自分に酔えるのも東南アジアならでは。  

日本では大したやつではないのに、金だって大して稼いじゃいないのに、ここでは「金持ちの日本人」を振る舞え、優越感を味わえる。  と同時にやっぱり「そんな日本での自分」を再認識させられる。  

  
マオは今日、オレという客を見つけて仕事にありつけた。それでも、半日で10ドルだ。客の見つからないドライバーはそれさえない。そして、遺跡群周辺では子どもたちがポストカードやら手作りのおみやげを持って観光客に売り歩く。しつこいほどついて回る。そしてほとんどの観光客は買わない。かわいそうだから、子供だから、と毎度買っていたらキリがないからだ。彼らは1時間に一つ売れればいいほうだろう。  

  
そんなことを考えながら、トゥクトゥクを運転するミスターマオの背中を眺めた。 



 人間の豊かさとは、どのようにして決まるのだろう。金か地位か名誉か。そんな使い古された言葉が脳裏をよぎり、オレは思わず鼻で笑う。  
オレは何しにカンボジアへ来たんだ。今回は観光できればそれでいはずだったのに。でも目にしたものに疑問があるならば、やはりそれについては考えてしまうたちなんだ、オレは。例え地球上のどこにいても。 

 
ここで言い切ろう、オレの旅は考えることだ。そしてそれを表現することだ。目的は絶景を見ることでも、出会いでもない。景色を見て、誰かと出会い、そこで思い、考え、感じたことから何を得られるのか。目的はその先にある。どんな自分で帰国できるのか。どんな考えを日本に持って帰れるのか。そしてそれを誰かに伝えられるのか。


   小石やゴミが散らかる道路を走るトゥクトゥクの、サスペンションなんてほとんど効かない座席で、ガタガタ揺られながら朝の日差しを感じ、生ゴミの匂いとシェムリアップの人々の生きる情熱の香りが混ざった朝のまだ爽やかな風を浴びながら、隣りを走るトゥクトゥクの欧米人の乗客と「おはよう」なんて言葉を交わし、ミスターマオの運転でアンコール遺跡群へ向う。町の中心部を抜けると、どこまでも広がる土の大地が視界に現れ、思わずサングラスなんて外して目を細めた。 




おかやんの「とりあえず何でもひとりでやってみる」ブログ。

やりたい事は悩みながらなんでもやってみる。結果的に楽しんでる!また、何かに特化して書いているわけではありません。 書きたいことをごった混ぜにしてネタをブチ混んで書いていますhttps://www.instagram.com/the_unending_world/?hl=ja

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