カンボジア④ 大切にしなきゃいけない気持ち。

アンコール遺跡群のチケット売り場へとトゥクトゥクドライバー、ミスターマオに連れていってもらう。


 シェムリアップ国際空港は新しくなっていたが、なんとチケット売り場も、場所まで変え新築されていた。


確かに以前は、駐車場も少なく、チケットブースも観光客の多さからすれば小さかったかもしれない。


  新築された場所には大型バスも何台も停められ、ちょっとしたお土産売り場もあった。まるで大型ショッピングモールのよう。何かの事務所も併設されているようだ。カンボジアの伝統的な建物を模していて、屋根は金色に輝いていた。  

遺跡群チケットは、一日券が20ドル、3日間券が40ドル、7日間券が60ドルとなっている。そもそも、カンボジアなのにカンボジアの通貨はほとんど流通せず、アメリカドルを使うってのが、本当に不思議。


カンボジア国内でアメリカドルは作れないのだから、外国人が持ち込むしかない。 そしてお釣りは、ドルではなくカンボジア通過のリエルで返ってくるんだから、もう無茶苦茶だ。  3日券を購入し、遺跡巡りをしまくる予定。他人が使えないように、顔写真が入る。 

 



遺跡群の区域内に入るときに、外国人を乗せた車両は全て停められ、そこでチケットをチェックされ、日付の場所にパンチで穴を開けられる。 


 その後も、遺跡の入り口には係の人が立っていて必ずチケットチェックを受ける。日本からすればいい加減なことの多いカンボジアだが、金がかかったそういうところはしっかりしているようだ。  



アンコールトム内のバイヨン寺院に到着。 


ミスターマオに 


「どこで待ってる?」  


と聞くと、彼はオレの持っていた地図を使ってアンコールトム全体の広さを強調し、


 「こう歩いてくれば、ここで合流できる。はぐれると困るからこれを持って行って」  

と、トゥクトゥクの座席を原付きの座席みたいに開け、トランシーバーを出してオレに渡した。 

「チャンネルはこれで」

 「オッケー、わかった。じゃあ、後で」 

 手渡されて使い方を教えてもらったが、その時オレは内心思っていた。  よく初対面の観光客のオレを信用したもんだな、と。このトランシーバー、どうやら業務用のようで、ズシリと重い。高そうだ。トランシーバー持って、オレがトンズラしたらどうするんだろう。 カンボジアの物価で考えれば相当に高価だぞ。 

オレは信用されたのか。ということは、このミスターマオも信用できるってことなのか。  
東南アジアでは、とにかく金銭をめぐってのトラブルや盗み、騙しが多く聞かれ、オレは来るたびにどんな相手にも注意に注意を重ね、警戒している。そのせいか、今まで何も問題なく旅をしてくることができた。今回も例外ではなく、常に危険な状況にならないようアンテナは張っていた。その気になれば走っているトゥクトゥクからも飛び降りて逃げる覚悟だし、怒鳴り声をあげる準備もしている。財布、現金は絶対にひと目にさらさないなど、注意している点はいくつもある。  できるだけ、たくさんのことを想定内にしておくことがトラブルを少しでも防ぐ手だ。  


  
   バイヨン寺院だけで1時間、その他含めてアンコールトムに計3時間くらいいただろうか、さすがに待ちくたびれたのか、それともオレがトランシーバーを持ってトンズラでもしたかと不安に思ったのかミスターマオから「今どこだ?」と連絡が二度ほど入り、遺跡めぐりをしながらトランシーバーで彼と交信し、他の観光客からの視線を浴びた。  




それにしてもカンボジアの雨季、日本の夏と同じくらい暑い。  日本の観光地だったら、コンビニやお店に避難して一度涼むことも可能だが、ここは何もないカンボジア。日陰といば大きな樹の下しかない。風もなく、ジリジリと日差しが無表情に照るばかり。  
待ち合わせ場所に向かうとミスターマオは、遠くからでも分かる涼し気な笑顔でオレに手を振ってきた。 


「汗はかかないんだな」  

 と聞くと

「そんなに暑くないからな」 

と言う。
正気か? めちゃくちゃ暑いぞ。 

一年中、そんな気温の国の人に、おかしな質問ってことは分かってるんだけどね。

  
ミスターマオは、オレのぐったりした顔の様子を見て心配でもしたのか、ペットボトルのミネラルウォーターを差し出してくれた。しかも、冷えている。買っておいてくれたのか、座席の下にクーラーボックスでもあるのか。  「いいの?」 

 オレが聞くと彼は言う。  


「ユーはお客だからな。お客がいないと私は働けないから。飲んでくれ」     

くそ暑いのに、 ポタリと温かい雫が胸の中に落ちる。

心地よい波が、体中に広がっていった。


その時を思い返すと、きっと、お互いになんとか理解し合える程度の英語力を駆使して会話していたと思う。お互い母語ではないからニュアンスまでは伝えきれない。だからストレートに気持ちを表現するんだ。  


忙しすぎる日々を走っていると、本当は大切にしなきゃいけない気持ちに気付いているのに、それらは当たってくる日常の強い風でどんどん剥がれ落ちていって、慌てて気付いて振り返るのだけれど、それがもう手の届かない昨日という距離になっている。  


身近な人に対する優しさとか、思いやりとか、気遣いとか、そんなものは日々劣化して剥がれ落ちていって、あとに残るものは恣意的な自分の気持ちだけ。こんなに頑張ってるのに、こんなに疲れてるのに、こんなにつらいのに、って、そうは思っても口に出すこともなく、職場で盗撮をして捕まったどっかの学校の校長のニュースなんぞを見て、「アンタやっちまったな」と化けの皮を剥がされた人間を知ってケラケラと心で笑う。 

 
そんなオレも日常生活では化けの皮を着ていることも多い。「このクソヤロー」と言う代わりに「分かりました」と言うし、「うるせーよオメー」と言う代わりに「すみませんでした」と言うことも多い。  


なによりも、最近、オレの感情は揺れ動くことがなかった。感動も喜びもなかった。揺れ動かないから涙もでない。胸に、泥炭が溜まっているような、重い何かを抱えていた。  


「ありがとう!」  

オレは思わず溢れでた笑顔と共に彼にそう言った。  
「さて、次はアンコールワットだよな。」  


 異国の地の優しさは、固まった心の汚れを取り除いてくれる。日本じゃ、水なんてどこでも飲めて、水道水も飲めて、ましてやノドを潤すもんとしては扱われていない。でも、ここでの水は心まで綺麗にしてくれるようだ。  密林を走り抜けるトゥクトゥクの、その心地よい風を浴びながらそんな思いが過ぎっていった。 


おかやんの「とりあえず何でもひとりでやってみる」ブログ。

やりたい事は悩みながらなんでもやってみる。結果的に楽しんでる!また、何かに特化して書いているわけではありません。 書きたいことをごった混ぜにしてネタをブチ混んで書いていますhttps://www.instagram.com/the_unending_world/?hl=ja

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