成田空港より12:00のバンコク スワンナムプーム国際空港行き、タイ航空に搭乗する。
タイ航空は過去に何度か乗ったが、いつもCAさんが綺麗で、つい目がいってしまう。タイ美人ってやつだろうか。
彼女らがシートベルトや酸素ボンベの手順の説明をしている時など、前のシートの隙間を利用して覗き気分を堪能している、ということはオレに限ってない。
時間こそ違うものの、ボランティアへ行った時と同じ航空会社、同じ乗り換え地であり、初海外の時の緊張やら胸の高鳴りを思い出す。
そして約6時間で、バンコクへ到着。
あの時は緊張のために乗り換えで迷ったが、今回は逆に気持ちに余裕があるため表示を見ずに歩き、迷ってしまった。 バンコクの空港は実に広い。
なんとか次の搭乗ゲートに着き、外を見ると雲行きが怪しい。
程なく、空港内に響き渡るほどの豪雨となった。雨季だとは聞いているが、どうやらこれは雷雨のようだ。稲光りがガラス張りの窓の向こうに見える。すぐに止むかと思ったが意外にもその気配がなく、結局バンコク発の飛行機が40分ほど遅れた。
1時間ほどで、シェムリアップ国際空港へ到着。
窓から見える空港の外観に懐かしさを覚える。ひとりでやって来た時の、不安と胸の高鳴りが同時にやってくるあの不思議な気持ち。 人生で一度しか味わえない、初めて海外の地に立つ時のあの気持ち。
目一杯空気を吸い込みながら滑走路へ降りた。
アジア独特の香りが旅のはじまりを伝え、静かな高揚感を与えてくる。
同じ飛行機に日本人も数組いたようで、彼女らはこぞって降りてすぐに空港建物をバックにグループで自撮りをしている。欧米人はさっさと歩く。ミーハー文化ってやつなのか、興味深い違いだ。
アライバルホールへ入ると、以前来た時よりも新しくなっていることに気づく。以前の建物も決して古いわけではなかったが、まったく新しく変わっていた。中央にアンコールワットの模型がディスプレイされている。
入国審査は他の便とも重なったためかなり長い列ができていた。時間がかかるようだ。日本で取得済みのビザ、それにパスポートを用意してひたすら待つ。それでも20分くらいで自分の番が来たと思う。4本指、それと親指の順にスキャナーで指紋を取られる。「オヤユビ」と言われた。係りの人は国籍を確認の上に、各国の言葉で入国者に伝えているのかもしれない。
ようやく荷物を受け取り、空港の外へ。
出た途端、オレンジの灯りの薄暗い中、十数人の男の視線が一気に私に集まる。
ホテル送迎のドライバーが到着口を取り囲むようにして自分の客の到着を今か今かと待っているのだ。その中に自分の名前を持ったドライバーを発見。若い青年だった。
最初は英語でやりとりしていたが、車に乗り込み、オレが日本人と分かると、片言の日本語で話し始めた。最初は世間話であったがホテルが近づくにつれ、明日はどこに行くのか、それならこの金額で行く、ホテルに言うと高い、直接ワタシに言ってくれ、などなど営業トークが立派であった。
確かにツアー会社に観光ツアーを頼むと、自力でいくより数倍〜10倍くらい高い。しかし世界一を競うほど平和な国、日本からきた人々は私も含めて安全をお金で買うのだ。
きっと、ホテルが契約しているドライバーなんだろう。信頼はできそうだったが、なにせまだ着いたばかり。時間も夜の9時を回っていた。疲れもあり、こいつは安全か怪しいかなどと察知するほどの思考力はもうない。
ドライバーはホテル玄関に車を横付けしながらも、まだしつこく最後の営業トークを続ける。
オレは
「分かった分かった、君の電話番号を教えてくれ。必要な時に電話をするから」 と告げ、車のドアを開けた。ドライバーはオレのスーツケースをトランクから出すと、笑顔で電話番号を伝えてきた。それを一応、自分のケータイに打ち込み、クメール語で「オークン(ありがとう)」と言うと大変嬉しそうな表情を見せ、彼は再び車を運転し去っていった。
チェックインを済ませると、やはりというべきかポーターが私の荷物を部屋まで運んだ。
正直なところ、荷物くらい自分で運べるし、そんな程度の仕事にチップなどあげたくないと思うのは、チップ文化のない日本人だから、という言い訳にしておこう。
ポーターが荷物を置く。オレはカーテンを開け、どんな景色か眺める。振り返る。ポーターが笑顔でドアのところに立っている。
財布から1ドル札を出し、ポーターにあげる。
そういうのが彼らの生活の助けになっていると聞く。
100円をケチって、お腹をすかせた貧乏だった頃が脳裏をかすめ、眉間を重くする。
過去は振り返りたくはないけれど、それらがオレをどうやら形成しているようだ。
チップを受け取った彼は実に愛想の良い笑顔を残して部屋を出ていった。あげたことでむしろ清々しい気持ちになる。
日本国内で考えれば、クソヤローなオレでもここでは金を持っている日本人の扱いを受け、客としてチップなんぞを渡している。
チップはあげれるけど、そんなに大した男じゃないんだオレは、日本では。
ひとり残された部屋で、しばしオレは彼が出て行ったドアを見つめ立ち尽くした。
豊かさってなんだろう。 心の豊かさって。 僅かに心が揺れていることに気づいていた。
カンボジア再訪の夜は、天井を見つめているうちに深まっていった。
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