2025.02.10 12:37新世界紀行 エジプトの旅22 馬車の旅夜のルクソールに降り立ったその日、ぼくは、宵闇に紛れるごとく日本人歓迎宿「ビーナスホテル」に足を踏み入れた。予約したはずのシングル個室は、今日は空いていないとのことで4人部屋へ移され、思いがけぬ広さに身を委ねる羽目となった。両開きの窓がメイン通り側にあり、鍵がしっかり閉まらず常に隙間が空いていた。そのため喧騒が深夜の帳に溶け込みながらも聞こえてくる。でも、眠れないということはなく、むしろ雑踏の音はどこか妙に耳に馴染み、疲労の身を硬いベッドに沈み込ませてくれるような、柔らかな波音のような、自然に睡眠へと導いてくれるものだった。翌朝、ツアーの集合予定より15分早くロビーへ行くとそこには何人かの日本人旅人がソファに腰掛け、各々の行く先での旅の断片を語り合って...
2025.02.01 23:17新世界紀行 エジプトの旅21 ビーナスホテル12月30日。もし日本にいれば、あの、日本独特の年末の空気感に身を委ねて過ごしていただろう。でもぼくは今、エジプトにいる。8日間の大冒険の只中に――。午後8時5分。列車はほぼ定刻通りルクソールに到着した。定刻通りとは全く予想外だ。ホームを大勢の乗客が埋め尽くし、次々にホームへ流れ出てゆく。この混雑した車内のどこに、これほど多くの人々が潜んでいたのか。驚きを抱きつつも、その群れに混じり、ぼくは慎重に駅を後にした。なるべく旅行者然とした素振りを見せぬよう、キョロキョロするのを控える。駅舎を抜けると、そこには雑然たる都市の光景が広がっていた。