2024.11.23 06:56新世界紀行 エジプトの旅14 神殿到着朝8時、アブシンベルの街へ足を踏み入れた時、ぼくの目を引いたのは、砂塵にまみれた看板だった。「神殿案内」の文字が、不意に胸の奥をざわめかせる。――もうすぐだ。道中の車窓から眺める景色は、無限に広がる砂漠と、ところどころ現れる乾いた植物の影。やがて駐車場に差し掛かると、そこはミニバス、大型バス、そしてチャーター車の混雑でごった返していた。一大観光地という言葉さえ、この喧噪には控えめに思える。運転手の黒人男性がぼくらに告げた。「出発は10時だ。」つまり滞在時間は1時間50分――余裕はない。ぼくは急ぎバスを降り、早足で歩き出した。神殿へ続く道沿いには、観光客相手の露店が並んでいる。飲み物を扱う店が特に目立つ。日本の冬の朝といえども、ここでは砂漠特有の乾燥した...
2024.11.23 06:55新世界紀行 エジプトの旅13 アブシンベル神殿へ!まだ夜の帳が降りたままの室内で、目覚めたのはアラームが鳴る前だった。時刻は3時18分。睡眠は5時間ほどだったが、どこか覚醒したような気分だった。興奮とも不安とも言えない感情が胸の奥をざわつかせ、再び眠りに落ちる気配は微塵もなかった。身支度を整え、部屋を出たのは3時45分。玄関集合は4時だというのに、気持ちは落ち着かない。玄関には誰の姿もなく、ただ宿の静寂が耳を包むばかりだった。外に出ようとしたものの、鉄のドアには内側から南京錠がかかっている。仕方なく階段に腰掛けていると、やがて宿の主、デイビッドが居住部屋から姿を現した。彼の住まいには宿の受付を兼ねた簡素なリビングがあった。木製の机にノートPC、乱雑に積まれた書類、それらが妙に現実的な光景として目に映っ...
2024.11.03 14:22新世界紀行 エジプトの旅12 アスワンの宿周辺散策アスワンの宿「デイビッドホステル」は、町の中心地からは遠く離れた辺鄙な場所に建ち、そこには観光客の影などなかった。日の入りはまだ18時を越えない頃だったけれども、冬の夜の帳はすでに濃く垂れこめ、頼りとなるのは街灯の淡い橙の光のみ。玄関を出て立ち止まると時が止まったかのように静まり返っていて、ひとけもまばらな道には、砂埃と黄昏の影が支配するばかりだった。