新世界紀行 エジプトの旅13 アブシンベル神殿へ!

まだ夜の帳が降りたままの室内で、目覚めたのはアラームが鳴る前だった。時刻は3時18分。睡眠は5時間ほどだったが、どこか覚醒したような気分だった。興奮とも不安とも言えない感情が胸の奥をざわつかせ、再び眠りに落ちる気配は微塵もなかった。



身支度を整え、部屋を出たのは3時45分。玄関集合は4時だというのに、気持ちは落ち着かない。


玄関には誰の姿もなく、ただ宿の静寂が耳を包むばかりだった。


外に出ようとしたものの、鉄のドアには内側から南京錠がかかっている。仕方なく階段に腰掛けていると、やがて宿の主、デイビッドが居住部屋から姿を現した。


彼の住まいには宿の受付を兼ねた簡素なリビングがあった。木製の机にノートPC、乱雑に積まれた書類、それらが妙に現実的な光景として目に映った。
「朝食だよ」と言って渡されたのはラップに包まれたパンが三つ。ほのかな温もりに、目覚めたばかりの胃袋がわずかに動いた。そういえばパン屋がすぐそばにあったことを思い出した。


間もなく他のツアー参加客がやってきた。一人は大柄な台湾人男性で、もう一人は日本人の20代の男性だった。その日本人の彼はカイロからの便が遅延し、昨夜深夜に宿に到着したという。そのためわずか3時間の滞在らしい。彼の履いている靴に見覚えがあった。


ぼくの部屋の外にボロ切れのようなカーテンで仕切られた場所があり、そのカーテンの下にその靴があったのを覚えている。どうやらそこはドミトリーらしく、そこで3時間ほどの仮眠を取ったとのこと。


彼の物静かな態度か、疲労のためか、元来の性分かは分からなかったが、会話は自然と途切れた。


ちょうど4時。デイビッドが車を出し、夜の街を走り出した。


ツアーのバス集合場所まで1分で着くというのでどこへ行くのか思っていたら、そこは昨夜訪れたガソリンスタンド前の広場。そこですでにツアー客を待つミニバスが停車していて、デイビッドと別れた。



バスはおおよそ20人乗りだったが、客は10人足らず。広々とした座席に体を沈めながら、旅の始まりに胸が弾むのを感じた。このワクワク感――日本でも海外でも、バスに乗るたびに感じるものだが、今回はアブシンベル神殿という特別な目的地がその感情をさらに彩っていた。



道中、バスは検問所で足止めを食らった。


順番に動くものかと思っていたら、とんでもない。いっこうに進む気配はない。
運転手さえ暇を持て余して何処かへ行ってしまうほどの停滞だったが、40分も停車し、やがて時計の針が5時を指すとともに動き始めた。グーグルには、何か検問所の記載があった。軍の検問所だったのだろうか。



バスは再び砂漠の中をひた走る。次第に空が明るみを帯び始めた。遥か彼方まで続く荒野――そこに差し込む朝日が、一瞬にして景色を黄金色に変えた。その壮大な光景に胸を打たれた。



「これが世界の終わりなら、こうした光景が広がるのだろうか。」



核戦争後の荒廃した地――そんな想像すら湧き上がったが、それは不思議と恐怖ではなく、ただ感動を伴うものだった。


言葉にはできない感情が、心の中に押し寄せる。喜びなのか、悲しみなのか。ふと涙が滲むのを感じた。それが「旅情」というものならば、この景色こそその真髄なのかもしれない。


理由もなく人を泣かせるほど、美しい景色は、人の心を浄化する力を持つのだ――そう思わざるを得なかった。


変わらない景色だというのに、全く飽きない。


それからアブシンベルの街へ到着するまで、ぼくはただただその景色を眺め続けた。


宿でもらったパンは格別の朝食となった。






おかやんの「とりあえず何でもひとりでやってみる」ブログ。

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