クソ野郎のジャワ島横断記⑨ ありがとう、バンドン。


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インドネシア、ジャワ島、三日目。  


今日はバンドン空港の16:25便でジャワ島第二の都市、ジョグジャカルタへ向かうことになっている。15:00にはバンドン空港へ行かねばならない。  



ディタが待ち合わせの時間、8時にちゃんとゲストハウスへやってきてくれた。 今日はタンクバン・プラフという火口へバイクで一時間半かけて向かう。バンドン市内を散策しても良かったが、インドネシアでのバイク旅、という響きが興味をそそった。バイクタクシーを雇えば高くつくし、何より現地で知り合った相手と今日、この日を共に過ごすことに価値があった。  


ヘルメットをかぶって移動開始。  



インドネシアに着いて以来ずっと半袖、ハーパンという格好でいたが、今日はバイクを乗って風を切ること、加えて標高の高い場所にいくため、冷えるとのことで、この日だけは上下ジャージを着たほうがいいとディタが言っていたので言う通りにした。  



どこをどう走っているのかは分からないが、とにかくバスや鉄道の車窓からではなく、 風を切りながら直接眺める景色はどこか格別な物があった。  バンドンの街中を抜け、郊外へ入り、次第に山の斜面に入っていく。振り返るとバンドンの街並みが眼下に広がっていた。  




日本の観光地の街道と同じように、そこかしこに小さなレストランやホテルが点在している。時折、休憩所兼お土産屋のような場所へ立ち寄り、約1時間20分ほどで到着した。  



入場料がかかり、外国人2000円。高過ぎだろう・・・。  

 「地球の歩き方」には三分の一ページしか紹介されていなかったここタンクバン・プラフ火山はどうやら一大観光地らしい。中国人、韓国人の団体の姿が目立つ。  

標高2084メートル。





メインの火口跡は想像以上に巨大。写真を撮っていると火口周囲をうろつきまわっていた土産売りがこちらへもやってきて、ブレスレットを買ってくれ、キーホルダーを買ってくれ、などと言ってくるのをディタがあしらう。  



どうやらさらに高い場所を目指して登山もできるようで、欧米人のグループがトレッキング姿で山へ入っていくのが見えた。オレも夏山登山をする身なので、惹かれるものがあった。  



観光地とはいえ、ここはインドネシア。お土産屋通りはトタンやベニヤ板でできた小屋が並んでいる。当然というべきか、著作権フリーと化したキャラ物が売られている。  

おじいさんがひとり、木を削っている。
「匂いを嗅いでみろ、いい香りだ。」
木片を手渡せされて鼻に近づけてみると、レモングラスのような香りがした。


おじいさん、ここで毎日こうして木を削っては加工をしているのだろうか。



12時に差し掛かろうとしていたので、麓の休憩所で買ってきておいた弁当を二人で食べる。中身はやはりナシゴレン。インドネシア式おにぎりとでも言おうか、丸く包まれている。けれども食べるのはスプーンなのだけど。  一時間半ほど過ごし、再び1時間半かけてバイク旅。バンドンへと戻る。  




次に向かったのは、これも行きたかった場所の一つ「バンドン自然史博物館」。入場は100円くらい。  




ジャワ原人を始め、ジャワ島の自然史を観てまわることができる。  






その次は、1955年にここバンドンで開かれたという国際会議「アジア・アフリカ会議」の建物を見て、


通りでおじさんたち四名がトランプで遊んでいたり、



バンドンの庶民街。




イスラム教のモスクへ向かう。インドネシアの大半の方々はイスラム教とのことで、そのことからもローニーが日本でも教会へ通い、キリスト教であることは珍しいことが分かった。  




ディタに聞けばオレでもモスクは見学できるとのことで、恐る恐る入らせてもらう。



イスラム教では一日のうちにお祈りする時間が決まっていて、仕事中だろうがモスクやお祈り部屋へ行き、祈るそうだ。その時間にできない場合は、時間をずらしてもいいことになっているそうで、ディタはオレを送ったあとにするそうだ。  




実際、オレが中を見学しているといつしかモスク内にコーランが流れ始め、次から次へと男性たちが集まってきた。  



無宗教の日本人のオレの目には異様な光景に写るが、これが文化、そして宗教なのだ。 ミャンマーでは仏教なので、オレも入ることができたがさすがに興味本位でイスラム教のお祈りに入るわけにもいかず、また作法も分からないのでモスクの隅でそれらを目に焼き付けていた。  




飛行機の時間が迫っていた。忘れていたわけではなかったが、ただ思った以上にバンドンの街に見るものが多かった。  






ここからオレの海外旅の、インドに次ぐ二度目の「飛行機乗り遅れそうになる」ショータイムがスタートしてしまった。  



搭乗便はインドネシアのLCC「ライオン・エア」。評判によると必ず遅延すると聞いていたため、時間通り空港へ行かなくても大丈夫だろうと思ってしまった。本来ならば一時間半前には到着しておいたほうがよいのだが、モスクを出る時点で一時間を切っている。 空港へは早くて15分かかるらしい。


 「ディタ、ちょっと急いでくれないか。」  


オレは彼のバイクにまたがり、慌てて空港へと向かった。もしライオン・エアが遅延していなかったらもう確実にアウトな時間だった。  


空港へ到着したのは離陸予定時刻の25分前。どうしてそんなに余裕ぶっこいてしまったのだろう、今から思えば完全にアウトなのだが、話は続く。 


 駐輪場へ慌ててバイクを停め、空港内の搭乗カウンターへ向かって二人で猛ダッシュで走る。駆け込んだカウンターへeチケットとパスポートを指し出すと、それは隣のカウンターだ、と言われ、慌ててまた移る。その、隣のカウンターで言われたことは 


「この便はもうチケット発券がクローズしています。eチケットを見てください。ここに、90分前に来てください、と書いてありますよ。」  


インドネシア語なので何が書いてあるかは分からないが「90」なんとかと書いてあるし、そもそもそんなことは分かっている。


 「じゃあ、乗れないんですか?」  


自分でも青ざめる質問であることは口にした瞬間に気付いていた。


 「乗れません。」  


係員は、こんなことはよくあるといった風に冷静な表情と声で答えた。 

「じゃあ、次の便は?」 

「もう今日はジョグジャカルタ行きは終わったので、また明日の便になります。」  


その瞬間、バンドン追加一泊が決定してしまった。青ざめながらもオレは今夜はディタの家に泊めてもらおうと頭の片隅で思考していた。


 「このチケットで明日の便は乗れますか?」


 「いいえ、無効となります。」


 「じゃあ、どうすれば?」 


「明日の朝、こちらへ来て、また買い直してください。」  


その言葉は衝撃を伴ってオレの鼓膜に飛び込んできた。  と同時にその瞬間、オレの脳は次の3つの事実を弾き出した。  


まず、計画していたスケジュールが狂ったこと。チケット無効となり、再度購入する費用がかかること、今夜泊まるはずだったジョグジャカルタの宿が無駄になったこと。  


まじか。。。  


脳裏に響くその言葉。どうしていつも通り早くこなかったのだろう。電車じゃないんだからその時間に行って乗れるもんじゃないのに。  


頭が真っ白になったまま、オレは後退りするように踵を返した。ディタに今日泊めてもらえるように頼まないと。とぼとぼと10メートルほど歩いたろうか、その時だった。誰かがオレの肩を乱暴に叩く。


振り返ると、最初に訪れたチケットカウンターの男性が険しい顔付きでオレを見ていた。 


「こっちへ来なさい。eチケットとパスポートを出して。」 

 

さらに、急げとばかりにオレを手招いた。彼が座っていたカウンターへ行き、彼はオレが手渡したeチケットとパスポート、さらにPC画面を真剣な眼差しで交互に見ながらカタカタと何やらタイピングした。


まさか、チケットが出るのか。


 「さあ、急いで。2階の4番ゲートだ。あっちだ。」  


彼はチケットをオレに渡すと、今度は自らカウンターから出てきて走り出した。


 「急いで。こっちだ。」


 「ありがとう!」  


どうしてチケットが発券できたのか。おそらく規定ではチケット発券時間は締め切っていたのだろうけれど、飛行機の遅延でまだ搭乗できる段階にあるのだろう。彼がどんな権限を持っているのか分からないが、優しさがなければそんなことはできない。反省と感謝しかない。  


オレはバックパックを右肩だけで担いで彼と共に走った。走りながら、背後を振り返る。ディタが手を振ってくれていた。 


「ありがとうディタ! 乗れそうだよ!」


 「気をつけて!」  


彼との別れ際がこんなにバタバタしてしまい迷惑をかけてしまった。バイクのガソリン代くらい払いたかった。一緒に写真も撮っていない。


 「本当にありがとう!」  


感謝を、言葉で述べることしかできない悔しさが急にこみ上げる。立ち止まりオレはもう一度大きく腕を振った。 


「急いで!」  

係員も待ってはくれない。すぐに彼の後を追う。  


二階フロアに行くと係員の彼は、 


「あそこが荷物チェックだ。」  と指さした。


 「トゥリマカシ!」  


オレは精一杯の気持ちでインドネシア語でありがとうを伝えた。  すると彼は険しかった表情を一転させ、はにかむ笑顔をオレに向けた。

そして親指を立てて言った。


 「グッドラック!」  

彼は、決して遅れてきたオレを怒っていたわけではなかったようだ。なんとか乗せてあげようと、手を使ってくれたのだ。  



オレが荷物チェックのベルトコンベアにバックパックを載せたのを見て、彼はまた階段を降りていった。本当にありがとう。オレは彼の、消えていく背中に向かってつぶやいた。  


まだ安心はできない。走って搭乗ゲートまで向かう。    


大丈夫だ。まだ搭乗開始はしていない。遅延しているようだ。いつまで待つのかは分からないが、とにかくまずはディタに連絡だ。ライン電話をかけると、彼は駐輪場にいた。改めてお礼と、家路の無事を伝えた。ガソリン代を渡したかったと言うと、

 「では、ガソリン代を渡しにまたバンドンへ来てね。」  

と笑ってくれた。  


いい青年だった。まさかインドネシア到着直後のバス停で声を掛けられ、こんなにも時間を共にするとは思ってもいなかった。  


どうしてだろう、これは何なのだろう。旅先での出会い運とでも呼べばいいのか、オレはそんな類の物を持っている。  


だからいつも、次は何が起こるのだろう、次はどんな人と出会うのだろう、とそんな風に旅を過ごしていける。  


いつも思い出す。旅の終わりにいつも思い出す、あの時の、人と出会った風景を。  

出会いはさよならと背中合わせだということもちゃんと分かっている。  


分かっているんだけどね、時折さみしくもなる。




あまりにものどが渇いたので売店でコーラを買い、胃に流し込んだ。  


一息つく間もなくアナウンスが流れた。どうやらオレの便の搭乗が開始されるようだ。  


まさに電車や新幹線に乗るかのようなジャストタイミングで空港へやってきたようだ。  


滑走路を直接歩いて飛行機まで向かう。  


さて次は遺跡が点在する都市ジョグジャカルタだ。  


さよならバンドン。 ありがとう。


この後は動画でどうぞ。

おかやんの「とりあえず何でもひとりでやってみる」ブログ。

やりたい事は悩みながらなんでもやってみる。結果的に楽しんでる!また、何かに特化して書いているわけではありません。 書きたいことをごった混ぜにしてネタをブチ混んで書いていますhttps://www.instagram.com/the_unending_world/?hl=ja

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