クソ野郎のジャワ島横断記⑧ 友人ローニー

インドネシア人の友人ローニー。 

彼とは群馬のとある教会で知り合った。 


英語の勉強を始めた頃、教会へ行けばきっと外国人がいて、英会話の勉強になるだろうという考えとミサがどんなものなのか知りたいという、二つの動機で教会へ訪れた。 そこにいた外国人のひとりがローニー。奥さんと子供、3人で訪れていた。 


彼は公立大学の医学部へ留学へ来ているインドネシアの医師で、奥さんも同じく医師という素晴らしい夫婦であった。  


オレが彼らと知り合ってから確か2年ほどで帰国したが、3年間程度は日本に滞在していたのだろう。帰国の際は教会でも神父を中心にお別れ会を催した。 結婚式場付属の教会であったため、ミサに来る人数は毎回5~8人程度で暖かい雰囲気であり、団体行動が苦手なオレでも溶け込むことができ、自然と皆と仲良くなることができた。 



加えるならば、無宗教である日本で、こういった場所に来る信仰心ある方々はとても心穏やかであり、祈る、という行為を日常的を行なっていた。どうしても気が合わない相手がいる社会において、ここだけはそういった人が皆無であり、オレにとっては毎週日曜日の夜のミサが楽しみだった。 ローニー夫婦は片言の日本語と流暢な英語を話し、オレもなんとかコミュケーションを取ることができた。 



一度だけ、彼らのアパートへ招かれ、インドネシアの家庭料理をご馳走になったことがある。 ローニーは日本を離れたあと、シンガポールへ居住地を変え、その後母国インドネシアへ帰国し、今は大学の教授をしている。  



ゲストハウスでローニーと再会したオレは彼と共に夕飯を食べに行った。彼の車はぼろ車ばかり走っているインドネシアのそれとは比べ物にならないほど綺麗な物だった。連れていてもらった場所は屋台でも定食屋でもなく、高級レストラン。駐車場には高級車ばかりが並んでいる。 



 「アトモスカフェ」。インドネアシア屈指の観光地バリ島をイメージしているようで、そこかしこに神鳥ガルーダの置物が置いてある。

日本で言えば「日本庭園」のような伝統文化の場所なのだろう、木々が生い茂る庭園に客席が設置されていた。



「仕事が遅くなって、ごめんね。お腹へったでしょう。食べましょう。」  
ローニーは申し訳さなそうにオレにメニューを手渡した。


彼は仕事が忙しいらしく、オレを迎えに来たはいいが、次から次へと電話がかかってきては対応していた。彼が電話している間メニューを見て、その物価の高さに驚いた。



日本円換算すれば決して高くはないが、インドネシア庶民が口にする定食屋の四倍も五倍もする金額だ。  電話で話すローニーをメニュー越しにチラリと見る。オレが知っている彼は日本での教会で気さくに皆に話しかけるムードメーカーであったが、今、目の前にいる彼は大学教授の顔をしていた。なんだかオレは急に緊張し始めてしまい、彼と一体何を話したらいいのか分からなくなってしまった。 


「ごめんね。何食べるか決めたかい?」  


電話を終えたローニーがいつもの表情に戻る。オレはここへきてもやはりナシゴレンを注文する。レストランなのでエビ付きだ。


 「忙しそうだね。」とオレが話すと「今、大学で色々な計画を動かしていてね。」と幾分真剣な表情で言った。


仕事の話はオレにしても分からないし、したいとも思わなかったんだろう、○○さんは元気かい?と日本での教会の話に彼は移し、またローニーが帰国してからの日本での事についてオレは話した。 


「そうだ、今日はうちに泊まりなよ。」  ローニーが唐突に言った。 


「でも、ゲストハウスに部屋はとってあるんだよ。」 


「お金は払ってあるんだろ? ということは君の好きにしていいってことさ。明日の朝、また戻ってチェックアウトすればいい。」 


「でも、いいのかい?」 


「もう明日にはジョグジャカルタに行ってしまうんだろ? 今夜しかゆっくり話す時間がないからね。ぼくは明日仕事だし。」  


オレは彼の誘いに甘えてそうすることにした。  


夕食後、ゲストハウスへバックパックを取りに戻り、ローニーの自宅へと向かう。30分ほどで到着したそこは、閑静な住宅街といった雰囲気で、富裕層向けに作られた新興住宅地なのだと推測できた。今日訪れたディタの家をはじめ、雑多で喧騒に包まれたインドネアシアの街ばかり見てきていたので、碁盤の目に整備された舗装道路やそこに数多く並ぶ洋風の住宅にオレは目を丸くし、まさかインドネシアにこのような場所があるとは思いもしなかった。  


その家も車庫には車が二台入り、フェンスのシャッターはリモコンで開閉。  閉めてしまえば外部からは絶対に入れない。  


中に入ると、ローニーの奥さんハナや子どもたちが出迎えてくれた。
 「やあ、久しぶり!」  


ハナの変わりない笑顔に安心し、息子ネイサンの成長ぶりに驚かされた。シンガポールの時に産まれた娘プリシアとは初対面。それでもオレに興味を持ってくれたようだ。


今夜はネイサンの部屋にオレは寝ていいということで、そこに荷物を置かせてもらった。いかにも子供部屋らしい机やベッドが置いてある。



リビングに戻ると、

 「二人はね、日本が大好きなんだよ。」 

 とローニーが言い、テレビを点けた。 


「日本の番組なんだよ、いつもこれを観てるんだ。ワクワクジャパンっていう番組。」 



 画面には日本の、たぶんアイドルだろう女の子が二人写っていて、「浅草でカワイイ探し」なんて企画をやっていた。字幕にインドネシア語が出ている。どうやら海外向け有料放送らしい。子供二人は番組に釘付けだった。 



 
ローニーはおそらく仕事関係だろう、お客が見え、硬い表情でソファで話し込みはじめた。その間、オレはこども二人と鬼ごっこなどをして遊んでいた。  



彼の家の広さもそうだが、年配女性の住み込みお手伝いさんがいて、インドネシアの家庭ではそれが普通なんだよ、とローニーが言うもんだから驚きを隠せなかった。キッチンの前には高い壁に囲まれた小さな庭があり、バーベキューなどもできるようだった。  



シャワーを浴びさせてもらい、ローニーやハナにおやすみを伝え、子供部屋に戻る。明日はローニーは仕事なので、出勤ついでにゲストハウスに送ってくれることになっている。  



ディタにも連絡を取った。明日はバンドン郊外にある火山火口の観光地へ連れていってくれることになっていた。  寝坊はできない。オレは荷物の整理をし、早めに寝ることにした。  ふとして起きると深夜一時。



トイレへ行こうと部屋をでるとローニーがまだリビングでパソコンを眺めていた。モニターの明るさで照らされた彼の険しい表情は、日本では決して知ることのなかった彼の仕事の顔だった。  




・・・・・・・・・・




翌朝、目覚ましで時間通りに起きる。ハナは子どもたちを学校に送り届けるために一足早く家を出るため、外に出て見送った。彼女もまた医師として大学で働いているため、共働き家庭だ。  



ローニーがお手伝いさんに何か告げると、彼女は冷蔵庫から何やらいくつか取り出して調理を始める。オレが着替えを済ませてくると朝食ができあがっていた。 お手伝いさんの部屋はキッチンのとなりで、開け放たれたドアからは布団やテレビが見えた。  





お手伝いさんにもお礼を言い、出発。  






ローニーは運転しながら朝から仕事の電話。このあと、お客さんを迎えに行くそうだ。 



ゲストハウスに到着し、朝の通勤で賑わう路上で男同士抱き合い、またの再会を願った。彼の車が見えなくなるまで見送る。



またいつ会えるかは分からない。もう会えないかもしれない。ジャワ島に来ることもないかもしれない。そんな思いが胸をよぎるとやはり、寂しくもなる。  

けれども来て良かった。会えてよかった。彼との再会がインドネシア再訪の目的のひとつだった。それが叶ってよかった。  


インドネシア三日目。あと6日間も残っている。まだ感傷に浸るのは早い。オレは気持ちをそう切り替えて、ゲストハウスへと足を進めた。


おかやんの「とりあえず何でもひとりでやってみる」ブログ。

やりたい事は悩みながらなんでもやってみる。結果的に楽しんでる!また、何かに特化して書いているわけではありません。 書きたいことをごった混ぜにしてネタをブチ混んで書いていますhttps://www.instagram.com/the_unending_world/?hl=ja

0コメント

  • 1000 / 1000