クソ野郎のジャワ島横断記⑥ おじさん、ありがとう。


大人について。  


大人は、悩んではいけない。  


誰にも迷惑をかけず、言われたことをこなし、美徳を重んじる。  決して物申すことなく、報告、連絡、相談をし、問題を起こさず、隠し事をしてはいけない。  


その全てをこなす必要など、決してないと察するまで大人になってからどれくらいかかってしまったろうか。  


旅に出たオレはすごく楽しそうな表情をしている。  



ジャカルタ中心部のガンビル駅からジャワ島第三の都市バンドンへと向かう。 出発から一時間半が経過し、昼を迎えようとしていた。


車内販売がやってきて、お菓子や飲み物をカートで販売している。隣のおじさんが目を覚まし、何か飲み物を買っていた。オレは飲み物もあればお菓子もあり、加えて今日はほとんど動いていないためあまり腹も空いていなかった。そのため日本と変わらぬ車内販売方法よりむしろ売り子のお姉さんたちのヒンドゥー教の服装のほうが興味深いものがあった。  


いったんは車窓の外へ放った視線であったが、背後から


「ナシゴレ〜ン」


と売り子さんの声が聞こえた。

あれ? 売ってるのか?ナシゴレンを。


 「あの、ナシゴレンって言っているけど、あれはお弁当ですか?」  


オレはおじさんに聞いてみた。 


「なんだ。食べたいのか?」


 「ええ。ナシゴレンを食べたいんです。」 


「それなら、呼ばないと。いや、ワシが呼んでやる。」 


そう言っておじさんは、肘掛けを両手で持って立ち上がると何やら声を張り上げた。

きっと売り子さんに「弁当一個だ、この青年に。」的なことを言ってくれたのだと思う。  


すると売り子さんがやってきてオレに弁当を手渡した。


おじさんの言う通りのお金を渡す。約250円くらいだった気がする。車内販売だからやはり割高。


それでも鉄道風景を眺めながら現地の駅弁を食べれるのは旅情を感じられる。 

「買えたか。腹が減ってたんだな。」  

おじさんが、微笑んでいた。  


あまり腹は減ってはいなかったが、蓋を開けて一口食べてみると、ほんのり辛味の効いたそれは実に食欲を誘い、オレは夢中になって食べた。髪の毛が一本入っていたけれど、東南アジアに来てそんなの気にはならなかった。 



 腹を満たし、再びオレは車窓の風景を見ていた。それはどこまでもずっと乗っていられるような気になるほど異国の、村と田園が広がる魅力的な眺めだった。  


鉄道はほぼ定刻通りにバンドンに到着するようだった。日本並の時刻の正確に驚きながらも、すぐにディタにもうすぐ着くことを連絡し、予定通り待ち合わせをお願いした。  


終点バンドン駅に到着すると客は皆大きな荷物を持って次々と降車口へと向かい列をなす。おじさんがまだ座っているので声をかけると、おじさんは足が悪く他の客のようにスタスタと歩けないため一番最後に降りると言う。 


 オレは「お世話になりました。」と告げ、他の客の後に続いて電車を降りた。けれども少し歩いてすぐにオレは足を停めた。この電車は直接地面に降りるタイプだ。引きずっているあの足でちゃんと降りれるだろうか。



オレは踵を返し、大勢の客の波をぬって引き返し、自分の車両に戻った。



おじさんはまだそこに座っていた。 



「戻ってきたよ。足が心配だから、降りるの手伝うよ。」 


 おじさん、余程意外だったのかサングラスを外し、その視線をオレに向けた。 


「おお、君か。ありがとう。では一緒に行こう。」  



オレとおじさんはその車両の全員が降りてから一番最後に降り、ゆっくりと改札へと歩いた。おじさんの黒いスーツケースを持ってあげた。異国の地へきて、こうして何か親切にできたことが嬉しかった。



「ところで、どこのホテルなんだ? ワシは車だから送っていこう。」  


おじさん、車を駅に停めてあるという。けれどもオレは改札でディアと待ち合わせをしていたため、大丈夫、と伝えたがおじさん、そいつも一緒に乗っていけばいい、と返す。  



改札に到着し、人でごった返す中、ディタと無事合流したのはいいが、さっそくおじさんについて説明をしなければならない。彼は直接おじさんと話し、事情を理解したようだ。


 「君はとても優しい人だと、この人が言っているよ。」  


それまでおじさんとはお互いつたない英語で会話していたが、ディタが合流したことで通訳になってくれ、スムーズに意思疎通ができるようになった。


とにかくおじさんはオレをゲストハウスまで送ってくれるとのことで、歩いてもせいぜい10分もかからない距離だったが、頼ることにした。何よりその気持ちが嬉しかった。  


ディタの通訳によると、おじさんはバンドン駅から車で40分ほどの場所に住んでいるらしく、「車を持っているからお金持ちかもしれない」とのことだった。


その車は、いわゆる「駅前駐車場」に停めてあった。と言っても当然日本のような場所でも設備でもない。


砂埃まみれ、ゴミ散乱のアスファルトに係員が一人立っていて、あそこに停めろ、あっちへ停めろと指示を出している。おじさんの車はトヨタの初代ハリアーで、 「この車はトヨタなんだ。日本の車だぞ。」  とオレに嬉しそうに告げた。



おじさんは車に乗る時こそ足をうまく乗せられず大変そうだった車の運転はスムーズなものだった。


ディタがインドネシア語で、あっちです、などと道案内をしながら数分で到着。  


偶然の出会い。おじさんとは固い握手をし、名刺をもらってお別れをした。車が見えなくなるまで手を降って見送った。どうか家までご無事で。  また会いたいな。


いや、でも、きっと会えることはないだろうな。でもきっとまた会いましょう。  


そんな刹那を連れて旅をしているから、いちいちオレは胸を痛めてしまう。 やっかいなもんだ。  




おかやんの「とりあえず何でもひとりでやってみる」ブログ。

やりたい事は悩みながらなんでもやってみる。結果的に楽しんでる!また、何かに特化して書いているわけではありません。 書きたいことをごった混ぜにしてネタをブチ混んで書いていますhttps://www.instagram.com/the_unending_world/?hl=ja

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