アブ・シンベル神殿の前に立ったとき、その威容は言葉に尽くしがたい感慨があった。
夫妻の語るカイロからアスワンへの旅路の顛末――遅延や小さなトラブルに彩られた道中記――は実に興味深く、聞いているうちに自然と時が経つのを忘れてしまった。
・・・ぼくが育った家では、家族旅行というものがほとんどなかった。
-------------ぼくもどこか行ってみたい
そして今、大人になり、自由とお金を手に入れたぼくは、ついにその炎が指し示していた場所――アブ・シンベルにたどり着いた。
四体のラムセス二世の像を見上げながら、入り口へと足を踏み入れる。内部には観光客が思いのほか多かったが、皆一様に静粛で、何よりもその圧倒的な壁画の存在感が、観光客の存在さえ消し去ってしまうようであった。
その奥へ進むにつれ、訪問者たちの声は次第に消え入り、代わりに異世界の気配が濃く漂い始めた。
最深部には、ラー・ホルアクティやアメン・ラー、そして神格化されたラムセス二世の像が並び立つ。年に二度、朝日がこの像を照らすという。それを思えば、神殿を築いた者たちの技術と叡智がいかに驚嘆すべきものであったか、改めて感嘆せざるを得ない。
ラムセス2世が、妻ネフェルタリのために建造したと言われる。大神殿と比べると確かに規模は小さいが、正面には巨大なラムセス2世の四体の像とネフェルタリの2対の像が刻まれている。
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