パリ組曲⑬

オルセー美術館前のパリ鉄道RERに乗り、ふたりは最近できたというショッピングモールをめざすことにした。  


谷川はRERの乗り方も調べてはきたが、実際にホームへ行って電光掲示板を見るとよく分からず、「地球の歩き方」を見てもどっち方面に乗ればよいか判断できずにいた。 


彼がそんな風にひとり悩んでいるとミヒャンは、 


「それなら、聞いてみましょう。」 


と、言って近くのベンチに座っていた年配夫婦のところへ行ってしまった。 


谷川も彼女の後に続く。

ミヒャンは、


「エクスキューズミー」


と言って話しかけ、地図を広げては駅の場所を指差していた。


やりとりを見ていると、どうやら年配夫婦も観光客らしく、分からない様子ではあったが奥さんが


「私たちと逆方向だからあっちのホームじゃないかしら。」


と教えてくれた。 


「メルシー」 


ミヒャンはフランス語であいさつまで済ませる。

この時ばかりは、ミヒャンの行動力やコミュニケーション力に驚かずにはいられなかった。 


「君たちはどこから来たんだい?」 

旦那さんがそう口を開く。 


「日本です。」  


韓国人のミヒャンが、ジャパン、という単語を使うことに、どんな意味が含まれているのか谷川は少し気になった。日本から来たのだから日本。ただそれだけもかもしれないし、韓国という単語は出したくなかった、それも含まれているような気がした。 


「え、日本なの。主人が来週、日本へスキーに行くのよ。北海道に。ニセコというところよ。」 


「北海道ですか。ワタシ、北海道に住んでイマス。サッポロというです。」 


「そうなの!? それなら案内してもらおうかな。」  


たまたま道を尋ねた夫婦が、来週日本へ行く。こんな偶然もあるのか。


谷川がミヒャンの言いたいことを英語で伝えながらではあったが、彼女はとてもうれしそうで、


「すごいデスネ、すごいデスネ。」


と声を上げて喜んでいた。  


谷川とて東南アジアの旅では、迷う度に人に聞いてきたもんだけれど、ミヒャンという女性を連れているため自分の力だけでなんとかしたいというような男の頼られたい気持ちが働いていたようだ。  



ミヒャンはミヒャンで、韓国からひとり日本へ来てひとりでやってきた。異国の地で分からないことは聞いてしまえばいいという強さを持っているのかもしれない。

男女の差なのか、国の違いなのか、それとも谷川とミヒャンという個々の違いなのか、いずれにしても自分にない物を持っているという点で谷川は今まで出会ってきた女性と何か根本的に違う子なのだという考えが、まだ無意識下ではあるが、確かに芽生えていた。  



無事に、目的の電車に乗り、目的のショッピングモールへ辿り着く。 谷川はそこでナイキ直営店を、ミヒャンは雑貨を見たり、休憩スペースでのんびりしたりして過ごした。 

そして夕方、ミヒャンがパリで行きたいと言っていたエッフェル塔に2人は向かい始めた。



つづく。


おかやんの「とりあえず何でもひとりでやってみる」ブログ。

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