カンボジア⑮ マッサージ屋のあの子は。 「その2」  


まさかカンボジアへ来て、ママチャリに乗っかるとは思わなかった。  いつ壊れるかも分からないようなサビついたチャリ。チェーンは、、、茶色い。・・・いや、焦げ茶だ。 


  マブがペダルを漕ぐたびにキーコキーコと寂しい音を鳴らす。彼女の肩越しに見るシェムリアップの世界はまた、違ったものに見えるのだから不思議だ。日本での現実なんて、物事の視点を変えられずに凝り固まってしまっているのに、異国ってのは、いわばトランス状態なもんだから、いとも簡単にそれを変えてくれる。 


 フラフラして、観光客やトゥクトゥクにぶつかりそうになるたびに日本語で


「お〜、っぶねえ!」


を連呼し、マブはそれに対して

「OK、OK」しか言わず、なんとか進み、涼しくなった夜風を浴びること5分くらい。


場所はパブストリートやナイトマーケットの近くの路地。

でも観光客が入るような路地ではない。お店は日本で言う定食屋。いや・・・、めちゃくちゃ古い定食屋。LEDとはほど遠い、暗めの電気が狭い店内と路上を照らしている。


客は二組。四人の家族と男性二人。外国人の姿は、ない。  脂っこい匂い、たぶん鶏肉だろう。店の前に置かれたプラスチックテーブルにつき、マブは店主らしき男性にクメール語で何やら注文していた。


まるでポケットティッシュのカバーのような小さな財布を出し、いくらか渡したようだった。  店主が無表情でこちらを一瞥する。 思わず目をそらす。  


いくらなのか分からずオレは5ドルを彼女に渡したけれど、彼女はいったんそれを受け取ったかと思うと、ぺらぺらと札をめくり1ドルだけ取ってあとの4ドルは返してきた。


そんなの、もらっちまったってオレには分からないのに、マブが日本人的な律儀さを持っていることに驚く。  


出てきた料理は、日本でいうとこのチャーハン、って感じ。入っている肉はたぶん鶏肉。香ばしい香りがあった。火がちゃんと通っているもので一安心。  


衛生的にフォークがちょっと心配だったから、マブに隠してテーブルの下でウェットティッシュで拭く。

 「じゃあ、いただきます」  

と、つい無意識に口から零れて、マブがもう食べながら

「何?」

と聞いてくる。


日本文化がなんやかんやと説明は到底できなそうなので、首を横に振ってごまかし、今度はオレが聞き返した。 

 「ここには、よく来るのか?」  


彼女はもぐもぐと食べて、それがノドを通ってから、 


 「ほとんど毎日ね」  


と言った。  


住み込みで、マッサージの仕事。マブの故郷なんて、例え聞いても分からないだろう。  

カンボジアについて観光やら歴史やら雑学的に調べていると、必ず出てくるのが貧困で、農村部の男性は出稼ぎで都市部にでて、家に戻るのは正月や国の行事などの長期休みだけで、女性となるとまったく仕事がないという。  


大して客も入らない店で、常に女性スタッフが数人常駐。それだけで仕送りと自分の生活が成り立つとは思えない。  


繁華街では、マッサージだと謳って客引きをしている怪しい店がいくつもある。     

もしかするとマブの店もきっと表看板はフットマッサージ屋で、目ぼしい男性客には裏メニューを提示しているのかもしれない。  


実際、夜に歩いているとトゥクトゥクドライバーが「女はどうだ?」と聞いてくる。客を連れていってその店から見返り金、マージンをもらうシステムなんだろう。  


夜遊びが目的で東南アジアへ来るヤツもいれば、オレみたいに、本当バカみたいに遺跡観光だけが目的で来て、夜遊びなんて全く頭になかったヤツもいる。男としてはかなりアホな部類に入ることに今更気付く。  



ご飯を食いながらマブを見る。彼女もこちらを見ている。  言葉がよく通じ合わないものだから、マブは何か言いたそうだけれどただ笑ってごまかす時が多い。  


その笑顔を見ていると、もうこの子に会うことはないんだろうな、というまるで他人事かのような考えが徐々に胸に染みてきて、なんだか急に寂しいような気持ちになり、オレはご飯が喉を通らなくなった。 

つづく。

次で、カンボジア記は終わります。



おかやんの「とりあえず何でもひとりでやってみる」ブログ。

やりたい事は悩みながらなんでもやってみる。結果的に楽しんでる!また、何かに特化して書いているわけではありません。 書きたいことをごった混ぜにしてネタをブチ混んで書いていますhttps://www.instagram.com/the_unending_world/?hl=ja

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