コーケー遺跡群から、密林の道路を走ること、1時間半。
ベンメリアへ到着。
アンコールワット以前の王朝があった場所との歴史的背景がある。
チケット売り場は、遺跡入口から何百メートルか離れた場所にある。
大型バスなどを停めるために、遺跡からは離れた場所に作られたんだろう。
一人5ドル。 相変わらず外国人価格。
ここに着いた時にはすでに、5時。
遺跡観光は5時半までとのガイドブックの記載。
30分しかねえ!
ミスターマオの車を降りて、ダッシュで遺跡へと入る。
長い参道には子供が牛のケツを棒でひっぱたいてどこかへ誘導していた。
ここ、ベンメリアはテレビやネットでまさに「ラピュタ」だと言われている有名な遺跡。
来てみたかった遺跡のひとつだ。
ゆっくり見て回りたいとこなのに、
30分しかねえ。
参道を行き、遺跡に到着するが、なんとなくここが門だったのだろうと分かるが崩壊が凄まじいため巨石の山と化している。
そしてその巨石に大木がからみついて成長していて、それがバルスの後のラピュタに似ていたり、ムスカから逃げるシータの場面なんてそっくり。
雰囲気は他の崩壊遺跡と似ているが、この遺跡は空中に浮かぶように木道が作られていて、遺跡全体を上から見下ろすことができ、冒険心を掻き立てられる。
その木道を、小さな子どもたちが鬼ごっこでもしているのか、駆け回って遊んでいた。
もう時間が遅いためか、遺跡の奥へと進むと客の姿はほとんどなく、静まり返っていた。
崩壊が激しいため、宙を走る木道は巨石を避けるようにして登ったり降りたり、あるいは蛇行しながら作られていて、初めてきた人にとっては迷路のようにも感じる。
ここが王朝だった頃、通路だったと思われる場所がまるで洞窟のようになっていた。
ベンメリア遺跡、思ったよりも広く、そして時間がないため、写真を撮りながらひたすら小走り。 洞窟の中をハアハア言って走っていると、つい何かを追いかけているような気になって、
「シータ!」
と叫びたくなる(笑)
そもそも「シータ」という名前は、カンボジアの古い物語「ラーマヤナ」に出てくる「シータ姫」から取ったものらしい。
ベンメリア遺跡はテレビやネットで見ていただけに、ここに来れて感動もひとしお。
とにかく細部までぐるぐる巡って、さて帰ろうかという時、一人の青年が階段に座って、スマホをいじっている。 勝手でわるいが写真を撮ると、笑顔をくれた。
「何しているんですか?」 と英語で聞いてみる。すると彼が降りてきた。
「ガード・・・」 英語はあまり話せないようだった。
それでも、なんとか会話したところ、ここベンメリア遺跡の管理をする仕事のようだ。管理と言っても当然日本のような固いものではなく、おそらくゴミ拾いとか、かんたんな警備のようなことなんだろう。
門の近くに管理小屋があるというので、彼のあと付いていってみることにした。
彼が指差した先のジャングルの中に、カンボジア特有の高床式の家があった。上半身裸のおっさんが、外でタバコを燻らせていた。
彼ともっと話してみたいが、何せ言葉が通じない。それにあたりが薄く暗くなってきていた。ミスターマオも待っていることだろう。
時計を見ると、5時半どころか6時になっていた。さすがカンボジア、時間にはそんなにうるさくないようだ。 彼に別れを告げ、参道を小走りで戻る。
入り口で参道の石に寝そべって寝ている男がこちらを見て、むっくり起き上がった。
ミスターマオだった。
大きな笑顔でワハハと笑って、 「オッケイ?」 と言う。
「オッケー。 すごい遺跡だったよ。日本のアニメに出てくるんだよ」と話すと、
「ああ、ラピュタだろ」
「知ってるんだ?」
「日本人の客が多いから、よく聞くよ。 バルス〜、とか何とか」
どうやら、カンボジアのトゥクトゥクドライバーや観光ガイドの間でもそれはすっかり有名になっているようだった。
マンガやアニメ作家の視点で日本にはない景色を見れば、こういった場所を舞台にした物語がインスピレーションで降ってくるんだろう。素晴らしいことだと思う。
ジブリ作品は、その舞台が本当に綺麗に描かれていて多くの人を魅了している。
次は「魔女の宅急便」の舞台なんてのも行ってみたい。
その日、ミスターマオにオールドマーケットで降ろしてもらい、夕飯をどこかで探すことにした。
去り際に「明日も頼めるか?」 と聞くと、
「もちろんだ。 朝からホテル前にいるからな」
お互い母国語ではない言葉だから、意思がよく伝わない時もあった。
でも「気が合う」ってのは人間同士なんとなく分かる。反対に「気が合わない」ってのも大人になるとすぐ分かってしまう。
彼にはもう毎日、トゥクトゥクを依頼している。
最終日の明日もやはり頼みたかった。
日本からカンボジアへやってきて、決めるのに悩みに悩んだホテルに泊まる。そこでトゥクトゥクドライバーの彼と偶然知り合う。料金も適正、運転も安全、性格が温厚で気が合う。 そして彼と出会ったことが偶然じゃないことをオレは知っている。
まっとうな金額で依頼できて、そしてそのことで少しでも彼の稼ぎが増えるなら、それはそれで本望だと思った。 そういえば、彼には家族がいるんだろうか。 親戚には会ったけど、他のことは何も聞いてない。明日、聞いてみるか。
観光客でごった返すパブストリートで、適当に入った店で固い肉のハンバーガーを食いながらそんなことをふと考えた。
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