(遺跡動画のYouTubeを貼り付けました)
ロリュオス遺跡群の帰り際、地元民の市場へ立ち寄る。
ガイドブックによると超ローカル感を味わいたい人はぜひ、のようなことが書いてあった。オレうってつけだと考えた。
まさにその通りで観光客は全くいない。
日用品、服、宝石、時計、野菜、肉、魚、なんでも揃っているが、人々のゴッタ返し、活気、店のひしめき具合からして例えるなら「戦後の闇市」だろう。遊んでいる子供もいれば、店番として働いている子供もいる。
本当なら一ヶ月くらい滞在して、ローカルな場所を中心に歩いて回ってみたいものだ。
午後は再びアンコール遺跡群へと向かった。
神殿のような建物があるという、プリア・カン遺跡。
ガイドブックには当然その一部しか写真掲載がないため、「行ったことないから行ってみるか」という軽い気持ちで行ってみたら、想像以上の大規模遺跡だった。中は碁盤の目のような規則正しい通路であるが、崩壊がかなり進んでいるため、迷路のようになっていた。
参道
ナーガ像。
入り口。 ラスボスの雰囲気がする。子供の頃にここに来ていたら、どれほど興奮したろうか。
崩壊が激しい部分もあるが、基本的にどこにでも入っていける。
あった。アンコール遺跡では珍しい2階建ての遺跡。
踊り子が、踊るレリーフ。 ダンスのための広場がある。
「アプサラ」という踊り。アンコールワットにはこのレリーフがたくさん刻まれている。
今もまだ踊られている伝統的なもので、ディナーショーが観光客に人気がある。
美しい飾りに妖艶に滑らかに動く手先。どこの国も、女性の踊りに男は魅了されてきた。
円柱が何本も立ち、寺院の一部ではなく神殿のようにさえ見える。
遺跡に巨木がからみついている。
ガイドブックがないと見つけにくいガルーダ(神の鳥)のレリーフ。2.5mくらいある。
近づくと戦闘がはじまる、のはFFだけか。
寺院の外壁の四隅にある。
映像だと雰囲気がより伝わると思います。
(やっとYou Tube 貼り付けました↓)
この遺跡のあまりの広大さと、崩落したままの雰囲気に興奮し、歩き回ってようやく神殿に着いたかと思ったら、どこからか轟音が聞こえてきた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
な、なんだ、この音は・・・?
慌てて辺りを見回す。
まさか。
まさか、エクスデスか?
懐かしい。
ハッとして、空に気付く。
ドス黒い雲が、ゆらめきながらすごいスピードでこちらに向かってくるのが見えた。その動く様はまるで悪魔の指先のよう。襲いかかってきた。
イメージ。
さらに、こんな風になります。
空を覆うネオエクスデスに唖然として立ち尽くしてしまっていると、数秒後には豪雨となった。
激しくなる雨に観光客らが一斉に走り出した。傘を差して急ぐ者、合羽を着て滑らないように帰る者、そしてどちらの用意もなく、遺跡の屋根を見つけてなんとか雨を凌ぐオレ。
なんとか雨から逃れたが、天井を見ると巨石の隙間から漏れ出してポトポトと雨が滴りとてきている。 じっとしたまま外を見ていると、雨が降り注ぎ、濡れた遺跡の巨石がその色を変え、より神秘的に、神々しく見えてくる。 雨に濡れゆく巨石群は色を失くし、視界がモノトーンと化していった。
誰もいなくなった遺跡は、奇妙なほどに静かで、不気味で、ノスタルジーを漂わす。まるで遠い記憶の中に入り込んだかのような時間の逆経過を感じさせる。
もしかすると、あの人にここで会えるんじゃないだろうか。
その壁の向こうから、すっと現れるんじゃないだろうか。
記憶の映像と、目の前の情景が交差する。
オレは、記憶の世界にいるんだろうか。
その時、男性の叫び声が聞こえた。ハッとして背後を振り返ると、10メートルほど先で欧米人のおじさんが雨で滑って転んでしまっていた。
遺跡の石は長年、多くの観光客をむかえてきたため地面はツルツルになってしまっていて、雨なんか降れば誰でも容易に滑ってしまう。おじさん、体型も太く、年齢も60近い。怪我はないだろうか。
こちらに向かってヨロヨロと歩いてきたので、大丈夫ですか?と声をかけた。全身ずぶ濡れだった。
「ああ、大丈夫だ。すごい雨だね。傘も合羽もないんだよ」
オレが逃げ入った場所も、足元はかなり濡れてきていて、外はもう池のようになっている。ここもまもなくダメかもしれない。
おじさん、よくみると60はもう過ぎているように見えた。
「ご家族はどこですか?」 オレは心配してさらにそう聞いてみた。
「私、一人で来ている。トゥクトゥクドライバーが、こっちで待っているんだよ」
この遺跡、どうやら裏からも入れるようで、たしかにそちらから来る観光客にも気付いていた。それにしても一人で来ているとは驚いた。イタリアから来たとのこと。英語のイントネーションが違うことにも納得。
「君は?」
おじさんがオレにたずねた。 日本だと答えた。Japanという響きを誇らしく思えた。
おじさん、何年か前に東京と京都と大阪に行ったことがあるという。
「シブヤ、あそこはすごい街だったね。大阪で、なんだったっけな、丸い食べ物、知ってるかい?」
「たこ焼きですか」
「そう、タコヤキを食べた。あれはおかしな味だったな。」
おじさん、そこまで言って「ああ、では、私は行くよ」とまた雨の中を歩いて出ていった。
”Have a nice trip.” と声をかけた。
「君もね。」
池と化した遺跡の中をバシャバシャと音を立てながら、おじさんはその危なげな後ろ姿をオレに見せながら小さくなっていった。
おじさんが去っていった方から、今度は別のお客がオレが雨宿りをするところへ現れた。
少しい色黒の欧米っぽい男性。目は黒い。合羽を身につけていた。
「すみません、背がこれくらいで傘を持った女性来ませんでしたか?」
激しい雨の音も混ざり、オレくらいの英語力ではそれが英語かも分からないようなイントネーションだったので、聞き返す。それだけの情報で見たともいえず、見ていません、と答えた。
男性は、ありがとう、と答えすぐにまた出ていった。 はぐれたのだろうか。確かにこの遺跡は迷路だし、この雨で混乱してしまえば現在地さえ分からなくなる。
彼が出ていってからどれくらい経ったか、彼が連れの女性を見つけて戻ってきた。
「見つかったんですね。」
「はい、ありがとう」
“Good Luck”
彼は苦笑いを残し、来た道を女性を連れて戻っていった。
その二人の背中を見ながら、どうしてオレは雨の用意をしてこなかったのかと少し後悔していた。
カンボジアが雨季だということは分かっていた。折りたたみ傘も持っていく気で結局忘れてきた。
さて、どうすっかな・・・。
皆、続々と自分の世界へ帰っていく。
ぼんやりと外を眺めてると、少しばかり雨が弱くなってきたことに気付き、オレは動くことにした。幸い帽子が撥水仕様のため、カメラはバッグにしまい、そしてバッグを帽子で覆いながら、滑らないように歩く。
地面がもう足首より上まで水に埋まるようなので、靴下をぬぎ、クロックスを裸足で履いてゆっくり戻った。
参道が、まさに池になっていた。
空を見上げると、微かに青空が見える。
ミスターマオが、遠くからこちらに手を振っていた。
なんだかそれは、しばらく会っていない懐かしい笑顔に思えた。
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