2024.12.27 11:30新世界紀行 エジプトの旅17 イシス神殿彼は、ぼくよりも一足早く、「タクシーを呼ぼう」と短く告げ、手際よくアプリ「カリーム」を操作し始めた。その指先は迷いなく、馴染んだ手順を辿るように、画面上のタクシー候補を探していく。その姿にぼくは出遅れた気持ちを覚えつつ、彼に追いつくようにと自分のスマホでも検索を始めた。「Uber」と比べれば、登録車両も利用者も明らかに少ないこのアプリは、ぼくらに数分の静かな葛藤を強いた。ようやくイシス神殿行きのタクシーを捕まえることができたときの安堵・・・、ただ、その安堵も、この綱渡りのようなスケジュールの不安を埋めてくれるわけではない。タクシーを待っている間、台湾人の彼は別件の提案を口にした。「明日、タクシーをチャーターしてルクソールに行こうと思っている。宿のデイビ...
2024.12.14 08:03新世界紀行 エジプトの旅16 強運と旅の仲間10時の出発の時間がいよいよ迫っていた。アブ・シンベル神殿を背にして、ぼくは砂漠の風に吹かれながらバスへと向かった。その途中、ふとした偶然で再び武田夫妻と出会う。話の続きをしながら、土埃にまみれた道を並んで歩いた。アブ・シンベル神殿――世界遺産第1号とも呼ばれるこの地は、移築の際に行われた巨大工事の記録を、写真の展示という形で伝えていた。ぼくははそれを一瞥し、背後に広がる歴史の重みを感じつつも、足早に立ち去らざるを得なかった。
2024.12.06 11:52新世界紀行 エジプトの旅15 神殿散策アブ・シンベル神殿の前に立ったとき、その威容は言葉に尽くしがたい感慨があった。陽光を受けて燦然と輝く巨大なファラオ像、その目の前でカイロの宿で出会った武田氏夫妻と偶然に再会したのも、何か目に見えぬ糸に操られているかのごとき妙な因縁を感じさせた。アスワンからのバスツアーの行程は、どれも似たり寄ったりの時間配分と聞く。だが、それがかくも精妙に絡み合い、まるで物語の一幕を用意するかのように夫妻と再び顔を合わせることになろうとは、何とも不思議な巡り合わせである。夫妻の語るカイロからアスワンへの旅路の顛末――遅延や小さなトラブルに彩られた道中記――は実に興味深く、聞いているうちに自然と時が経つのを忘れてしまった。だが、悠長に話し込む暇はない。限られた滞在時間を惜...