クソ野郎のジャワ島横断記⑱ 路地裏の子どもたち

来た道を宿へと戻る途中、鉄道の高架下に沿って伸びる薄暗い路地を見つけた。覗いてみると、どうやら庶民の家がならんでいるようだ。日曜日のためか、子どもたちの姿も見える。



一瞬躊躇ったが、オレはそこへ入って行ってみることにした。  上からは洗濯物がぶら下がり、バイクが隅にびっしりと停まっている。道幅はわずか2mほど。そこを前から後ろから、人やバイクが通り抜けていく。ほんの10分歩けば首都ジャカルタの都心部だというのに、その影に住民たちがひっそりと暮らすような場所があるとは、とオレは驚いていた。  



すぐにカメラを構えて撮る。すると住人たちが笑顔を向けてくれる。この路地は一体どこまで続いているのか。グーグル・マップで確認すると、しばらくいった先でコの字に曲がり、また同じ道に戻れるようだった。それならば進んでみよう。オレは周囲を警戒しつつ、歩みを進めた。  





軒先と言うべきか、通路に面した場所を店に変え、日用品やらお菓子やらを売っている家もある。  コの字に曲がる突き当りの手前で、数人の女の子たちが集まっていた。どうやらスマホでゲームか何かしているようだった。カメラを向けると、照れくさそうにこちらを向いてくれる。  



大人の一人が、片言の英語で「どこから来たんだ?」と笑顔と共に聞いてきた。そこから何やら色んな人から質問攻めに合い、気付けば近所の人たちまで集まりちょっとした騒ぎになっていた。 




まあ、座れ。昼は食ったのか? 何か飲むか?   


結局、ちょうどお昼を作っていた夫婦の旦那さんがオレの分を後から追加で作ってくれた。  たぶん、魚肉ソーセージ、たまご、ベトナムのフォーらしき麺だと思うが、塩味が効いていて汗をかいた身にはたまらなく美味かった。  






もう何を話したかは覚えていない。そもそも、どこまで話がお互い伝わっていたかも分からない。ただオレにとって、思いつきで訪れた路地の先でそこに住む方々に良くしてもらったこの経験は忘れられない思い出になっている。


 「夜にまた来なさい。お祭りやってるから。」  


そう伝えてくれたのはどこからともなくやってきたおじさんだった。おそらく独立記念の関係の祭りなのだろう。    




宿に戻ると、インドネシア人のスギーと中国人のワンが、まだ共有スペースで過ごしていた。オレもそこへ混ざる。何やらスギーがインドネシア語を教えているようだった。    



しばらく過ごしたのち二人に別れを告げ、今日の宿、インドネシア到着日にも利用した「ザ パッカー ロッジ」へと移ることにした。5日ぶりの、この宿。その間、もう二度とやっては来てくれない時間を過ごすことができた。濃密で、刺激的だった。本当に久しぶりにこの宿へ戻ってきた気がした。帰国は明日。今日が最後の夜だ。  


個室のベッドでこの5日間を反芻し、横になっているとフェイスブックを交換した「路地のおじさん」からの連絡だった。 


「7時に来てくれ。」  


オレは再びあの路地へ向かった。    


細い路地を入り、進んでいく。すると、昼間に話した子どもたちが路地で待っていてくれ、オレの姿を見つけるなり駆け寄ってきては名前を呼び、そして手を取って、奥へと導いてくれた。  


昼間と打って変わって、子どもたちは皆おしゃれをしている。足元こそサンダルだが、女子たちはスカートを履いていたり、カラフルな服を着ていた。オレはお土産にと、昼間に撮った写真を宿で印刷してもらい持ってきていたので渡した。  


子どもたちに手を取られながら、向かった先には広場。 至るところに赤と白のインドネシアの国旗が飾られ、祝福のムードを感じさせた。  


子どもたちはしきりに「ピクチャー、ピクチャー」と連呼してくる。写真を撮ってほしいらしい。インドネシアでも当然スマホは普及し、皆持っているのに「カメラ」そのものは珍しいのかもしれない。一枚撮る毎にカメラの液晶を確認しに来ては、自分が写っていることを確認し嬉しそうな声を上げていた。  







広場の中央では、大人たちが大勢集まって何かの記念撮影を始している。それを眺めていると別の大人が飲み物や食べ物を持ってきてはオレの手に掴ませてくれた。  


9時頃、広場から人々が去り始め、子どもたちも帰り始めた。オレもこれ以上お世話になるのも良くないと考え、宿に戻ることにした。すると幾分大きな女子たち、たぶん15才くらいだろうか、宿はどこなのか、どうやって帰るのかなど心配の声をかけてくれる。オレは来た時同様、歩いて15分ほどのところにある路面電車のコタ駅から帰るつもりでいたが、彼女らは、それは遠いから、と言ってバイクタクシーを勧めてくれた。




「バイタク」は路面電車より当然割高(と言っても数十円程度なのだが)で呼ぶのも面倒だし、自分の足で帰ったほうが何より気楽なので、遠慮をしてはみたが彼女らはどうしてもそれに納得しない。  


心配してくれる気持ちを頂き、彼女らに連れられて大通りまで歩いた。どうやらバイタクの待機所があるらしい。彼女らはひとりの運転手を捕まえて、大声で交渉し始めた。おそらく「安くしてあげてよね」だとか「ちゃんと送り届けるんだよ」などを言ってくれたのだろう。  


オレがバイタクの後ろにまたがると、彼女らはそれ以上ない笑顔をオレを見送ってくれた。  首都ジャカルタの熱気に満ちた風を切り走っていく。夜景が、残像のように視界を流れていった。明日帰国だというのに、名残惜しい出会いを創ってしまったな、とオレは半分憂いだ。   


おかやんの「とりあえず何でもひとりでやってみる」ブログ。

やりたい事は悩みながらなんでもやってみる。結果的に楽しんでる!また、何かに特化して書いているわけではありません。 書きたいことをごった混ぜにしてネタをブチ混んで書いていますhttps://www.instagram.com/the_unending_world/?hl=ja

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