馬車に乗るのは、考えてみれば初めてだった。
最初の目的地は「王家の谷」。エジプトに来た旅人が必ず訪れる、ツタンカーメンの墓がある場所だ。
タクシーなら20分ほどの距離を、1時間かけて進む。その間、何台もの車に追い越されたが、馬車のスピードで見るルクソールの田舎風景は、ずっと眺めていたいほど美しかった。
谷は殺風景だった。だが、一大観光地らしく、ビジターセンターは近代的な建物で、道もきれいに整備されていた。チケットカウンターに向かう。
両側を10メートルほどの岩壁に挟まれたアスファルトの道を数分進むと、王家の谷に到着した。
入り口の前には列ができていた。さすがはエジプトでも屈指の観光スポット。小規模な王墓であることも影響しているのだろう。
ライトに照らされた壁画は、3000年以上前とは思えないほど鮮やかだった。あまりに鮮明すぎて、後世に修復されたのではないかと疑うほどだ。
敬意の表れなのだろう。
エジプトに来ると、すべてが世界遺産であり、圧倒的なスケールの連続で、感動が麻痺してしまう。
狭い入り口から入ると、異世界に迷い込んだようだった。
両側には鮮やかな壁画とヒエログリフ。
王の石棺の上には、無数の星を描いたドーム状の天井画があった。
それは冥界を象徴していた。
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