ミニバスに揺られ、チェンイーの街を抜けていく。
時刻は9時。ぎりぎり夕飯は何かありつけるだろうか。
香港中心部のベッドタウンであるここチェンイーは、香港らしく超高層マンションがメイン通りに立ち並び、それ以外の景色が分からないほど林立していた。
時刻が遅いせいだろうか、コンビニや定食屋といった店構えは確認できず、ただひたすらマンションと寂しい街頭、街路樹が続いていた。
グーグルマップをチラチラ見ながら進行方向、行先が合っているかを確認する。
信号などなく、ただ降りる客がいるたびに停車する程度で、15分ほどで目的のホテル前の停留所まで無事にたどり着いた。
終点らしく、残りの乗客数名も全て降りる。
その中の地元人らしき1人の年配の女性がぼくを気にかけてくれ、
「どこのホテル?」
と尋ねてくれた。
ホテル名を伝えると、
「こっちよ。ここを歩いて行って。入り口はまっすぐいって右側にあるわ。」
停留所はホテルの目の前だが、どうやら入り口が道路側ではなく反対側、海側にあるらしい。
今日は、チェンイーに来てからずっと助けられている。とてもありがたい。感謝だ。
それだけでも香港へ来て良かったと思えるのだ。
ウィンランドホテル。
なんだか随分苦労してたどり着いた気がする。
そもそもマカオを去る時から道に迷い、時間を気にして、なんとか国境間バスに乗り、さらにはバスが分からず人に聞いてやってきた。
旅は1日が長い。
1日が濃い。
人生がそこに凝縮されているかのようなことが次から次へと起こる。
翌日の午前が帰国便のため、できるだけ空港に近い駅を選んだのが理由だけど、香港中心部まで地下鉄で戻っても時間的には変わりなかったと思われる。
ただ、旅は移動し続けたい、というぼくの気持ちとしては同じ街より知らない街に泊まり、少しでも新しい土地を知りたい。
そういう意味ではここへ来て良かったのかもしれない。
値段も香港中心部の狭いホテルと同じ値段で、朝食付きで、しかも広い部屋に泊まれる。
教えられた通りに通りを歩くと、一見分からないような感じのホテル入り口があり、中へ入ると他にもチェックインの客が見えてほっとした。
日本のルートインとかアパホテルとか、そういったホテルのレセプションに似ていて香港にしては接客も丁寧。
パスポートを出してチェックインを済ませ、ルームキーや朝食券を受け取る。
そうだ、ここは香港なのに朝食がつく。観光客向けホテルの利点だ。
そもそも朝食付きのプランを予約したのだけど。
おそらく最終日の朝は疲れているから起きるのも遅く、知らない土地で朝から朝食探しに出掛けるのは億劫だと考えての計画だ。
そして朝食券が2枚もらえた。スタッフの説明によれば、
「こちらのお部屋はツインルームなので朝食券は二枚になります。」
とのこと。
観光ホテルなのでシングルルームはない。
ツインルームとはいえ、もちろん1名で予約しているのはホテルも分かっているだろうに。
レセプション近くのエレベーターに乗りこむ。
部屋はなんと13階。高層階だ。
しかも、20数階まである。 香港ディズニーランドが近いから、これだけの部屋数があるのだろう。
部屋は素晴らしかった。
大理石風の床、綺麗なベッド、広いバスルーム、ドライヤー付き、お湯沸かしポットあり。
そして、香港の夜景。
最終日にうってつけの最高のホテルじゃないか。
いつも、できるだけ旅の最後の宿泊は少し豪華なホテルを選んでいる。
ホテルとして決して豪華というわけではないが、初日のゲストハウス、2日目のビジネスホテルよりははるかに豪華。
トイレやバスルームに近い方のベッドに寝ることにし、もう一方のベッドに荷物を置く。
しばらく、寝転んでぼんやりしたり、夜景を見た後、夕飯を探しに出掛けることにした。
B1Fにコンビニとレストランマークがあったから、なんとかなるはず。
13階からエレベーターに乗り込み、B1へ。
その途中の階だった。
エレベーターが他の階で停まる。
入ってきた客は中国人の、20代そこそこの女性2人組だった。
風呂からでたばかりなのか、長い髪はまだ半分濡れ、肩にはバスタオル。
スウェットのパジャマ姿。
階ボタンを押さないところを見ると、どうやら同じくB1へ行くようだ。
地下に着くとその2人は小走りで、さらにB1の階段をおりて行った。さらに下に何かあるのだろうか。
B1には定食屋があり、またチャーハンが食える、と喜んだのも束の間、すでに30分前に閉店したらしく店内は片付けをしていた。
しかしその隣にセブンイレブンがあり救われた。
店内はぼくのように夕飯を逃したか、もしくは夜食でも買いに来たのか、宿泊客がまだ10人以上もいた。
おにぎり系の物を探したが、この時間に残っているものには食べたい味がなく、店内をウロウロして悩んだ挙句、カロリーさえ摂れれば良いと思ってカップ焼きそばとコーラ、それに牛乳を買うことにした。お湯は部屋で沸かせるのだ。
香港まで来て、北海道牛乳を飲むとは。
しかも、高い。日本円で300円くらいする。
10分ほどしてエレベーターに戻ると、先ほどの女性2人組がいる。
なぜか手にはカップラーメンが3つ。他にも袋に何か入っている。
どこで買ったのだろう、と思い声をかけてみた。
「この下にスーパーがあるよ。コンビニで買うと高いから。あなたも夕飯買うならスーパーへ行けば良かったのに。」
「スーパーがあるの知らなかったんです。ついさっきこのホテルへ着いたばかりで。こっちは何買ったんですか?」
ぼくは彼女らが持っていたビニール袋の方へ視線を送った。
「こっちはパンとか、飲み物。明日の朝ごはんにね。」
朝食付きではない部屋。少しでも節約する買い物。
若さだなあ。と少し微笑ましい。
「あなた、日本人?」
「そうです。東京から。今日はマカオへ行ってきて、その帰りです。」
その話をすると彼女らは驚いた。
「私たちはマカオから来たの。それで今日、香港ディズニーランドへ行って来たの。」
ぼくは突然にスマホを取り出して、今日行ってきた場所の写真などを見せた。
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