登山テント泊道具を揃えたのに、天候不良で眠らせること一ヵ月と一週間。
ついにその時がやってきた。
9月頭の金曜日の朝、起きて天気予報を見る。登山計画を立てた日からそれは日課のようになっていた。
ケータイ画面を見ると、前日まで曇りマークを付けていた天気予報が、晴れマークに変わっている。
行ける!
用を足し、顔を洗い、オレは朝の限られた時間を準備に当てた。
そして夜。
用意しておいたザックの中身と持ち物をもう一度確認し、それでもまだ忘れ物があるんじゃないかとソワソワしながら、20:30を過ぎた頃、安曇野市へと出発した。
北アルプスの燕岳(つばくろだけ)へ行くのだ。
最寄りの高速インターに向かう途中のコンビニで、朝ごはんにとおにぎり等を購入。
約3時間のドライブ。
前回、新潟の巻機山へ行った時はHIDEの「ロケットダイブ」等をガンガンに流して、ヘドバンしながら深夜の山道を運転して行ったが、今回は初テント泊がどうなるのか不安と緊張と期待で高速は冷静な運転に集中した。
安曇野インターで降り、グーグルナビの指示の元、登山口のある中房温泉まで真っ暗闇の道を走る。
次第に山へと向かい、ヘッドライト以外の光がない恐怖の空間が始まる。
なんなんだこれは。
何か見えてきたぞ。
グーグルによると、駐車場らしき場所へ着いたようだ。まっくらでなにも分からない。
わずかに見えた「登山者駐車場」という看板を頼りに細い道へと入る。
50メートル程で到着。
現在23:30。
金曜日の夜は混んでいると聞いていたがまだ3台しか止まっていない。それに50台は停められると聞いていたけれどここは駐車可能台数がここは少ないようだ。
どうやら目的地として来た「第一駐車場」ではないようだ。
暗闇の運転席で5分ほど考え、もう一度車を動かし、来た道を戻る。再び50メートル下ると、さらに下に広場が見え、来たばかりの車がヘッドライトで多くの車を照らし、暗闇の中に浮かび上がらせているのが見えた。
どうやらそれが第一駐車場らしかった。照らし出されただけでももうかなりの台数が駐車しているのが見えた。
今からあそこへ行って暗闇の中、空いている駐車場スペースを探すよりは先程到着した駐車場で静かに夜を明かしたほうが懸命だと判断し、すぐにUターンをし戻った。
人気の山の登山口駐車場の、特に金曜日の夜はひっきりなしに車が到着し、バタン!という車のドアの開け閉めの音や話し声、あるいはヘッドライトをつけたままウロウロする車などがいて、そりゃもうゆっくり寝てられない。
空いている駐車場のほうが、オレには合う。
エンジンを止めると、漆黒と静寂に包まれる。
さて寝よう。さっさと後部座席に移動し、横になった。
車中泊ではいつもしばらくの間、いろんな事を考えていて、それは今までのことや、明日起きてからの行動についてだったりするのだけれど、やはりそうしている間にも次々と車がやってきた。こちらに車がやってくるということは、「第一駐車場」が満車になったのかもしれない。
ドアの音やらヘッドライトの明かりでなかなか寝れなかった。
目が覚めると、ドアの外の空が漆黒ではなくほんのり明るいことに気付いた。
4:30くらいだったろうか。
話し声が聞こえ、もう出発する人がいるようだった。
さずがに、もう少し寝かせてくれ、とオレはまた目をつむる。
とはいえ、実際に眠れるわけではなく、相変わらずのドアの開閉音やら話し声に聴覚を奪われながら目をつむっていることしかできなかった。
5:00を過ぎ、完全起床。隣りの車の人たちも起き始めたのが窓越しに見えた。
びっくりしたのが、駐車場に停まっている車の台数だ。
昨夜の到着時点では、オレ含めて4台。その後続々とやってきてはいたが、蓋を開けてみれば路駐の車もある。
さすがに登山雑誌の表紙を飾るほどの人気の山なだけはある。
昨夜買っておいたおにぎりを食べ、家から持ってきたコーヒーを飲み、支度開始。
重さは12〜13キロくらいだろうか、テントや寝袋や食料、水が入ったザックを担ぎ、いざ出発。
路駐の車もわんさか。
50メートル下ってきたところ。
昨夜はこの看板を見て、入って行ったのだけど、小さい「第二P」という看板があった。
こちらが「第一P」。50台くらいは駐車可能とのこと。
第一Pと第二Pの間の道路を約500メートルくらい歩いて登山口へ向かう。
到着。
登山届けを提出。
少し歩くと、
登山口。時刻は5:50。 すでに大勢の登山者が集まっていて、次々に登山道へと吸い込まれていく。
5:55
トイレを済ませ、出発。
この赤いザックの方、40歳くらいの女性だが、オレに「どちらまで行くんですか?」と声をかけてきた。この方もザックから見てテント泊。オレよりは遠くへいくのかもしれない。
ともかく普段、オレは山で変質者的オーラを出しているので話しかけられることは滅多にないので驚いた。
それ以上の会話はなかったが、この方はけっこうな速さで登っていった。(途中で追い抜いた)
樹林帯なので、すぐに眺望はないけれど木々の隙間から見える山が美しい。
6:25
第一ベンチ到着。
ここ、燕岳登山道には30分置きくらいに休憩スペースがあり、大勢の人が休むことができる。
6:48
第二ベンチへ到着。こちらもすでに大勢の人たちがいた。おそらくバスツアーの人たちだろう。
ガイドさんらしき人の姿があった。
しばしの平坦な道を行き、
再び登り。
7:15
第三ベンチ到着。
そういえばこの燕岳の登山道はアルプス三大急登と呼ばれているらしい。
ただ、傾斜や整備状況という意味ではオレのホームマウンテンの魔界村(群馬県南牧村)の山々のほうがよっぽどきつい。
南牧村の山々は、岩山、鎖場、急登、ハイキングコースなどバリエーション豊かで、かつ、滝や神社、石像などの見どころが登山道で散見できるため楽しい。
そして、
あまり整備されていないため危険な箇所がある。
登山道が不明になり、ほとんど後半はサバイバル化する。
登山なんてしたことのなかったオレにとっては、そういった様々な意味で鍛えることができたホームマウンテンなのだ。
さて、燕岳の急登。
見上げるほど上に、小さく人が見える。
あんなとこまで登んのか・・・。
途中、このおじいさんと話しながら登ることになった。
年齢は80歳くらいはいっているだろうか。足腰はとても元気で強い。話し方もとてもしっかりしていて気さくな方だった。
7:40
第四ベンチ。「富士見ベンチ」
途中には、合戦小屋というのがある。そこまであと10分。
あと5分。
もう、かなりしんどい。背中は汗びっしょり。
8:02
到着した。標高2350M
ここでは貨物用ロープウェイで荷揚げしているスイカを買って食べることができる。
ただ、8分の1カットで800円もする。それでも食べている人は休憩している人の3分の1くらいはいる。今でこそ登山装備は多種多様になり、重さも軽くなった。しかし昭和の頃は、水を持っていくにしてもその入れ物自体が重かったりと苦労もあったんだと思う。
このスイカは、きっと昔から夏場はここで売っていて、登山者たちを癒やしてきたに違いない。
スイカは買わないものの、オレも大した休憩もなく上がってきたのでさすがにここでは観光も兼ねて休もうと決めていた。
なにせ1人なもんで、広場に並んだベンチの隅っこに座る。
重いザックを背中から下ろすのも一苦労。
やはり背中が汗でびっしょり。かといって体温も高く、汗冷えもない。
水分とエネルギーを補給。トイレもあるので、済ませる。
と、そこでオレは前方のベンチで休んでいるある男性の後ろ姿に目を奪われた。
なんと、口元あたりから煙を出しているではないか。
こんな綺麗な山で、100人近くの登山者が休んでいる休憩所で、喫煙スペースでもないのに何でたばこ吸ってんだコノヤロウ。
と、一瞬は思った。
が、しかし、よく見ると煙があがっているのは、なにも口元からだけでない。
体、肩、頭、、、、次々とあらゆるところから白い煙が立ち上り始めた。
その時、オレのスカウターの数値が急上昇し始めた。
男性の体から発する煙は、どんどん濃くなりゆらゆらと揺れ始める。
戦闘力は、
そして、休憩場所を見渡すと、
他にも数人の男性の体中から煙が立ち上っているではないか。
オレのスカウター、壊れてやがる・・・。
と思って、笑いをこらえていたら、それは体からでる湯気だった。
9月に入り、当然8月よりは気温も低くなってはいるが、登山をしていればものすごいエネルギーを使い、汗をかく。
その低い気温と体温の差で、体中から濃い湯気が立ち上っていたのだった。
さらに休んでいると、また前方に座って、スイカを食べているメガネをかけた小太りのオタク気質な人に目が止まった。どうやら1人らしい。
800円もするスイカをよく食べるなあ、と思って見ていたら、この方、
どうにも卑猥な食べ方をするのだ。
左手でがっしりとホールドされた抵抗のできないスイカを右手に持ったスプーンですくうのだが、すくったそれを舌でベロンベロンに、これでもかと舐め回すように食らっている。
そんな風に食べるもんだから、スイカの汁が彼の口や顎から垂れ落ちて、次々にお皿に落下していく。
それは「おいしそうに食べる」という表現では決してないようにオレには思われた。
そんな様から目が離せないでいると、次に彼はスプーンをお皿に置いて直接スイカを口に運ぶ。
彼は、「はぶしゃ・・・、はぶしゃ・・・」というような食事音を口元から発し、そしてそれは「かぶりつく」というよりも、やはり「舐め回す」という表現が適当な様であり、彼の両手でがっしり掴まれた逃げ場のない無抵抗なそのスイカが、オレにはまるで裸の若い女性かの如く見えてきて、オレはただ登山へ来て休憩をしているだけであるのにまるでアダルトビデオでも見ているのかと錯覚してしまいそうであった。
べつに夏の風物詩でもあるスイカをどうに食べようと人の勝手なんだけれども、この人はきっと風俗へ行った時にこんな風にしてんだろうなと想像すると、なんともオレは愉快な気分なれ、有意義な休憩時間をこの合戦小屋で過ごすことができたのであった。
つづく。
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